郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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市議会検証 選挙まで半年余③
市議のなり手不足が深刻に
人口減少や社会環境を反映

 任期満了に伴う鶴岡市議選(10月上〜中旬投開票)と酒田市議選(10月22日告示、29日投開票)が半年後に迫った。首長を含む執行機関の監視機能や市政に民意を反映させていく役割などが期待される両議会だが、市議のなり手不足が深刻さを増し、市議会への信頼が揺らいでいる実態が浮き彫りとなっている。なり手を確保し、議会活動を活発化するにはどうすればよいのか。鶴岡、酒田両市議選に向けた最新の動向を探り、識者の提言も掲載した。(本紙取材班)

前回選は無投票に近く

議員等報酬額、招集状況
 酒田、鶴岡両市がそれぞれ2005年に合併して以降、両市議会議員選挙の立候補者数は回を重ねるごとに減る傾向を強め、市議のなり手不足が深刻さを増している。特に前回はいずれも無投票に近い少数激戦となった。
 酒田市の05年11月の合併後初選挙では定数34に対し41人、09年11月でも同30に対し34人が立候補したが、13年11月は定数28に対し29人と大きく減った。投票率も72・44%、72・15%から54・36%に急落している。
 鶴岡市も同様で、05年10月は定数38人に68人、09年10月は同34に対し40人が立候補したが、13年10月は定数32に対し34人と急減。投票率はそれぞれ72・42%、73・85%、62・13%。
 「議員に対する期待感や市議会への信頼が揺らいでいる」(複数の酒田市民)実態が浮き彫りになった。

報酬1日当たり8〜9万円

 市議は、兼業・兼職を許された非常勤の特別職公務員。議員報酬は常勤職員への給与と違って生活を保障する生活給ではないが、専業議員にとっては生活の糧となっているのが実態。
 16年度の議員等報酬額と酒田、鶴岡両市議会の招集状況は1面表の通り。一般議員、議長、副議長、議会選出監査委員の月額報酬は酒田市が上回るが、さほど大きな差は無い。県内主要4市を比較すると、山形市は一般議員でも月額64万円に上るが、ほか3市は似たようなもの。
 月額報酬の1年分に年2回のボーナス(期末手当)を加えた一般議員の年間報酬額は、酒田市が725万8500円、鶴岡市が730万2450円。山形市は1千万円を超える。
 これに対して、定例会と臨時会を合わせた16年度の議会会期日数は、酒田市が81日間、鶴岡市が89日間。一般議員の年間報酬を会期日数で割れば、会期1日当たりの報酬額は酒田市が約9万円、鶴岡市が8万2千円になる。
 会期中以外は何もしないわけではないが、「市議は市長提出議案を修正や否決し、政策提言を行うなど本来の役割を果たすことなく、多額の報酬を手にしている」との批判は多い。
 ある保守系酒田市議の後援会関係者は「議員報酬は民間より高く、各議員の活動内容への対価としても総じて高い」と指摘する。
 厚生労働省がまとめた16年の「賃金構造基本統計調査」の結果によると、従業員10人以上の県内企業の勤労者1人当たり現金給与は月額26万2800円、賞与を加えた年収ベースでは371万4800円になる。
 県内では比較的多い従業員10〜99人規模の企業の50〜54歳の働き盛りの男性に限っても、月額30万5300円、年収422万3300円にとどまる。議員報酬が、民間給与に比べて相当に高い水準にあるのは確か。

厚生年金求め意見書提出

 議員の年金をめぐっては、酒田市議会が16年12月定例会で、議員の厚生年金加入を可能にする法整備を求める意見書を可決し、国会と政府関係機関に提出した。鶴岡市議会でも採択を協議したが、「一般の国民年金加入者を置き去りにした議論には賛成できない」とする会派があり、棚上げ状態となっている。  地方議員には、自身の掛金と自治体の負担で運営する独自の年金制度があったが、平成の大合併が進んだ結果、加入議員数が急減し、制度が廃止された。在職12年で受給資格を得るなど、制度への批判も強かった。  制度廃止に伴い、専業議員は公的年金では国民年金にしか加入できなくなった。しかし、掛金は全額自己負担になるが、国が推進する個人型確定拠出年金、国民年金基金には加入できる。  こうした背景もあり、議員の厚生年金加入に国民の理解が得られるかは不透明。地方議員には議員報酬と政務活動費に加え、会議などの出席に要する交通費を公費で負担する費用弁償などがあり、「両市民の間では、待遇面は比較的恵まれている」と見る向きも多い。  酒田市議会の歴史や現状に詳しい70歳代のある政党関係者は「待遇面への不満は一面的な問題でしかない。なり手が少ない根本的な問題は、人口減少による人材不足や現状に対する危機感の欠如、地元のために働こうという意思の希薄さなどによるところが大きい」と分析する。

酒田市議会 追認機関に魅力感じず

 複数の市議や各市議の後援会幹部、政治に詳しい関係者らの話を総合すると、なり手不足の背景には▼市議会は二元代表制の一翼を担うとは言っても、実際は市側が提案してくる政策の追認機関になっているのが実情で、市議の仕事に魅力を感じている人が少ない▼選挙になれば集票活動に力を入れるなど、普段は所属政党のための政治活動が主流で、そうした活動を見ている人は二の足を踏んでしまう▼報酬額の割に質を含めて市議に求められるものが多く、市民から批判的に見られる場合も多い▼組織票と資金力を持っている人だけが当選する傾向が強まり、議員の固定化・高齢化が進んで新人が出馬しづらい状況が続いている―ことなどがある。
 前出の70歳代のある政党関係者は「以前は、若い人が農協や商議所の青年部、青年団などの活動を通して、地域の将来について政治を絡めて語り合う機会は多かったが、今はそうした場面が少なくなっているように見える。現職市議が山形新幹線庄内延伸や観光振興、市街地活性化などに取り組んで成果を上げれば、そうしたテーマに対する若い人の関心も高まり、政治への参加意欲が盛んになるのではないか」と提言した。
 地方分権一括法が2000年に施行されて以降、国から都道府県や市町村に数多くの権限が委譲された。
 これに伴い議会と議員の責任も増した。市議には高い専門性を備えた政策立案能力と、先を見据えた深い見識が求められ、執行部とのなれ合いの中で意思決定をしてきた従来の「ぬるま湯」から脱却していくことが必要となっている。

鶴岡市議会 政治意識の低下を問題視

 鶴岡市街地を地盤にしていた保守系元市議は「議員報酬は高く見えるかもしれないが、4年ごとの選挙費用など出費も多く、現実は厳しい。特に最初の選挙時の費用負担が重い上に、勤め人は落選すれば失業するなど生活が不安定。運良く当選できても、子育て世代には生活費や教育費がのしかかる。当選を続けたところで財産が増えることはないし、今や議員年金も無い。後ろ盾の無い働き盛りの勤め人が、仕事を辞めてまで出馬するにはハードルが高すぎる」と議員の魅力低下を指摘した。
 後継を立てずに引退した旧市農村部の保守系元市議は「昔は地元をまとめれば何とか当選できたが、今は地元の票だけでは難しくなっている。こんな状況では、後継に良い人材がいたとしても、リスクを背負わせることになるので強くは勧められない」と打ち明け、地域の人口減少も影響しているとの見方を示した。
 同じく過疎化が進む旧町村部の保守系元市議は「若い人は政治に無関心というのか、あえて議員になりたいとは思わなくなっている。選挙は金が掛かるし、人に頭を下げて回るのも面倒。経済的にもそれほど魅力は無くなった。役所への議員の口利きが不要になり、議員の存在意義が薄れた。絶対に当選させるからと言って、これはという人材に声を掛けたが、みんな断られた」と後継世代の政治意識の低下を問題視した。
 本紙が現職の鶴岡市議を対象に実施したアンケート調査の結果でも、議員たちはおおむね同じような理由を挙げている。
 議員の魅力低下では「議員年金制度が廃止になり、仕事を辞めて立候補することが困難になった」「魅力ある仕事として感じている市民が少ない」などがあった。「メディアなどの批判に対する恐れ」「マスコミの辛口評価に及び腰」など、割に合わない仕事と市民が受け止めているとする指摘もあった。

議員の日常の勉強・活動は 酒田・鶴岡両市議に調査

 本紙では「市議会議員の活動等に関するアンケート調査を2〜3月に、酒田市議会議員28人と鶴岡市議会議員30人に実施し、酒田市議26人、鶴岡市議27人の回答を得た。
 「議員活動を有権者に伝え、有権者の声を聞く機会として議員個人として行っていること」を聞いた設問では、酒田市議は市政・議会報告会を挙げた議員が多く、地域や関わりのある団体などの各種会合に出席して市民の声を直接聞いているとした議員がほとんどだった。
 また▽活動を知らせる広報紙や後援会の会報配布▽支援者や支援企業の訪問▽街頭宣伝▽日ごろの市民の相談への対応▽ツイッターを行っていた。
 鶴岡市議では、こまめに市民から意見を聞くことを重視する、との回答が最も多かった。▽議会報告会や座談会の開催▽議会報告紙の発行▽地域行事や会合への参加なども多くの市議が挙げた。少数だが▽インターネットやSNS(ソーシャルネットワークサービス)を活用して、投票率の低い世代や層が市政へ関心を高めるよう交流している▽議会に広報・広聴委員会を設置した。議会としての対応も必要―などの意見もあった。
 一方、「議員活動に生かすため、個人で独自に研修や勉強などを行っていること」は、ほとんどの両市議が、地方議員向けセミナーや政党・団体が主催する研修など、市内外での研修会や講演会に積極的に参加していた。
 また、複数の新聞や地方自治の雑誌・書籍などを買って勉強しているという声も多かった。中には▽政務活動費以外に私費で月平均5万円ほどの書籍や情報紙誌を購入という議員もいた。

専業専門性強化か副業増員化か 議員のなり手不足解消に二つの道
山形大学人文学部教授 北川忠明

 中心商店街の衰退、限界集落化、町内会の衰退等々、いたるところで後継者不足、なり手不足が問題とされている。地方政治においても深刻である。近年の自治体首長・議員選挙における無投票当選の増大等、地方政治の衰退を示す徴候として危機感を募らせるに十分である。なり手不足の問題の背景には、若者層を中心とした人口流出と少子化による人口減少に歯止めがかからない、という人口構造上の問題がある。即効薬がない厄介な問題である。
 本年秋に予定されている酒田市と鶴岡市の両市議会議員選挙でも、なり手不足が懸念されているようである。単純に無投票を避けるというのであれば、議員定数を減らせばよい。しかし、引退議員を見込んで定数を減らせば、現職議員に強みがある以上、新人がチャレンジする意欲をくじくことにもなり、なり手不足の解消にはつながらない。
 地方議員のなり手不足は、もちろん政治への関心の全般的な低下という背景もあるが、先の人口構造問題の系として自治体財政も縮小しており、議員報酬引き下げ、議員年金の廃止等により、議員職の魅力が薄れていることも要因だと言われる。志はあっても、現在の職を失う可能性等のリスクを冒してまで目指すものではなくなっているということであるが、確かにその問題はある。
 では、どうすればよいか。二通りのやり方がある。一番目は、リスクを冒してもチャレンジする価値のあるものとして議員職の質をあげることである。議員職を専業として強化し、その分報酬も引き上げ、社会的尊敬を得られる職業にすることである。二番目は、逆方向で、職を失うリスクの大きいことが理由で立候補を断念するのであれば、リスクを軽減して、議員職を副業として従事できるようにすることである。
 専業としての議員職強化を目指すのであれば、まず議員定数を削減し、その分報酬を増大させ(昨今の議員年金の問題はおく)、議員活動の質量の強化を図ることである。一般質問に立たない議員は論外だし、政務活動費の使途も厳しくチェックする必要がある。現状のような追認機関としての議会、条例制定権を行使できない議会も変わらなければならない。定例会も期間延長や回数増大によって通年化に近づけ、政策立案・提言能力の高い専門職としての議員が担う議会へと強化されなければならない。
 これはアメリカの大都市型と言ってもよいが、かつてローカル・マニフェストが目指していた議員・議会像に近い。この方向での改革のためには市民と議会をつなぐ政党・会派・現職議員の相当な覚悟と努力が必要になる。議員職を副業と考えることはやめなければならない。政党・会派は政治の質を上げるために、政策研究に注力するとともに、政治への強い志を持ち、議員にふさわしい資質の持ち主を発掘し育成する取り組みを活発に行う必要がある。これが、なり手不足解消につながる一つの方向である。
 もう一つの副業としての議員・議会も有力な選択肢である。欧米の基礎自治体型と言ってもよい。この場合は、サラリーマンのように仕事を持っていても、議員を兼業することになるから、議員報酬も半分くらいに減らし、議員定数を増やすこともできるが、議会は夜間休日開催にする必要があろう。幅広い職業従事者、年齢層に門戸を開くことになるので、なり手不足問題解消の一手になるし、市民の要求を幅広く市政に反映させる利点がある。現行議会が年4回の定例会で開会日が100日足らずであるならば、いっそ議員を副業として担うことが可能な制度にした方がよいという意見もあるだろう。
 酒田、鶴岡両市議会議員の前回選挙時の肩書きから類推すれば、議員職を専業とする議員、そうでない議員の構成は半々のように見えるが、上記のいずれを選ぶかは各自治体の選択による。
 なお、今秋の両市議会議員選挙に関して言えば、現職議員や議会のあり方に対する不満が強くなれば新人候補の参入もあるだろうし、また、各政党・会派は今後の国政選挙等を想定して勢力拡大のため市議候補者の擁立を行うだろうから、このような事情によって、なり手不足からくる無投票や無風選挙の懸念は杞憂に終わることもあり得る。しかし、議員像や議会像を問うことなくして、各党・会派が候補者擁立に走るのであれば、選挙は無投票や無風選挙にならなくても、陣取り合戦に終わってしまう。いつまでたっても地方議会が抱える課題は解決されないままである。
 秋の選挙までは時間がある。議会も市民も真剣に議論して、人口動向や自治体の将来像、広域性等を考えて、どのような議員・議会がふさわしいかということも争点にした方がよいと思うのである。

きたがわただあき 1953年徳島県生まれ。京都大学法学部卒。名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程(政治学専攻)修了、同大法学部助手、山形大学教養部講師、同大教養部助教授を経て95年同大人文学部教授に就任、現在に至る。

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