郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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羽越線高速化
在来線の線形改良めど立たず
新潟駅での同一ホーム15日開業も

 JR新潟駅での上越新幹線と羽越本線の同一ホーム乗り換えが15日から始まる。羽越本線特急「いなほ」と上越新幹線が同じホームに乗り入れるので、乗り換えに要する移動時間や距離の短縮が図られ、利便性が格段に向上する。しかし羽越本線を高速化する手法の一つ、在来線の線形改良に向けためどは立っていないのが実情で、酒田市の関係者たちの間からは「山形県の対応はおかしい。いつまで待てば高速化が実現するのか」「線形改良をやめるのであれば、山形新幹線の庄内延伸を進めるべき」といった批判や今後を見据えた意見が上がっている。(本紙取材班)

乗り換えの利便性は向上

 新潟駅に乗り入れている白新線や信越本線、越後線など全ての在来線を高架化する同一ホーム事業は、新潟県、新潟市、JR東日本の3者が事業主体となり、新潟駅周辺整備事業の中核となる連続立体交差化に合わせて進められてきた。
 総事業費は約885億円。このうち、上越新幹線と羽越本線特急いなほの同一ホーム乗り換えを可能にする、ホームや線路の付け替えなどの工事費は約15億円で、事業主体の3者が3分の1ずつを負担した。
 15日からは在来線の4路線を高架化し、高架駅第1期として開業する。残る1路線を高架化し、高架駅が全面開業するのは3年後の21年度となる予定。
 いなほは運行する往復各7本が同一ホームに到着し、開業時に同一ホームで乗り換えられるのは上り5本、下り6本。同一ホームは12両編成までしか対応できないため、16両編成の「Maxとき」上下3本は同一ホームに入らないが、Maxときが12両編成の新型E7系車両に換わる3年後には、全て同一ホームで乗り換えられるようになる。
 現在、地上を走る在来線と高架ホームに乗り入れている上越新幹線との移動には、高低差約16メートルの階段を上り下りしなければならない。このため高齢者や障害のある人、子供連れ、大量の荷物を抱えた帰省客や旅行者らにとって、大きな負担になってきた。上越新幹線といなほが同一階層に乗り入れることで、乗り換えに要する移動時間や距離の短縮が図られ、スムーズな乗り換えが可能となる。


費用対効果の問題が要因

 庄内地域の鉄道網整備をめぐっては、①富山―庄内―新青森間を結ぶ羽越新幹線のフル規格による整備②新潟―酒田間をつなぐ羽越本線の高速化③在来線の陸羽西線を使って新庄と庄内を結ぶ山形新幹線の庄内延伸―の二つの事業計画と一つの地域要望が併存する。
 二つの事業計画のうち、段階的に整備を進めてきた のが②の羽越本線の高速化への取り組み。山形、新潟両県とJR東日本は、山形県が2006年3月に公表した羽越本線高速化調査と山形新幹線機能強化調査の比較結果に基づき、③の山形新幹線の庄内延伸より優先して整備を進めている。
 新潟駅での同一ホーム乗り換えは、羽越本線を高速化する手法として導入していく3事業のうちの一つ。残りは▼在来線の曲線区間を直線に改良するなどして速度アップを図る在来線の線形改良▼いなほで使う車両への高性能な新型車両の導入―の2事業からなる。
 このうち、いなほの新型車両は13年9月に導入済みで、これにより東京―酒田間の所要時間は下りで4分、上りで1分それぞれ短縮した。さらに今回の同一ホーム化で6分、線形改良で10分の時間短縮効果がある、と試算している。
 しかし山形、新潟両県とJR東日本の3者による在来線の線形改良を具体化する検討は進まず、事業化のめどは全く立っていない。
 最大の要因に「後背地の人口減によって羽越本線の利用者数も減少の一途をたどり、事業者のJR東日本が費用対効果の面で問題があるとして、事業化に難色を示している」(3月まで山形県総合交通政策課長を務めた川端達史・同県企画調整課長)ことが挙げられる。
 事実、JR東日本が毎年公表している資料に基づき、本紙がまとめた「羽越本線と陸羽西線の利用状況の推移」=下表=を見ると、羽越本線の鶴岡―酒田間の1日1キロ当たりの平均通過人員(乗客数)は、2016年度実績が2272人。6109人を運んだJR発足時の1987年度に比べ、29年間で3837人62・8%も減少した。
 同じ羽越本線の村上―鶴岡間はさらに深刻で、同区間の16年度は1881人。5690人を数えた87年度から3809人66・9%も減っている。
 川端・前山形県総合交通政策課長は3月28日、本紙の取材に「線形改良を事業化する時期を尋ねられれば『頑張ります』と答えるしかないのが実態。ただし羽越本線の高速化を山形新幹線の庄内延伸より優先すると結論付け、地元から要望ももらっているので、3者で引き続き検討していく」と厳しい現状を明かした。

推移


利用者増に向け速達型特急

 線形改良を含む羽越本線の高速化に向け、鶴岡と酒田両市の関係者たちの間には、地域要望も絡んださまざまな思惑が交錯している。
 鶴岡市では線形改良に加え、単線区間の複線化や停車駅を減らす速達型特急の新設などによる高速化と、フル規格による羽越新幹線の整備を、JR東日本、山形県、国などに引き続き要望していく考え。
 特に実現の可能性が高いと期待しているのが速達型特急の運行。現在のダイヤに速達型特急を1本新設し、停車駅を酒田、鶴岡、村上、新潟の4駅のみと仮定すれば、鶴岡―東京間は3時間30分台まで短縮できるとみている。
 鶴岡市地域振興課長を3月まで務めていた佐藤光治・同市企画部次長は「速達型特急はJRとの合意が必要だが、ほかの高速化の手段と比べ実現の可能性は高い。線形改良や羽越新幹線の実現にはまだまだ時間がかかるが、市としては引き続き粘り強く要望していくしかない」と話す。
 同一ホーム乗り換えが始まるのを機に、事業効果を引き出すための施策については「今秋からプレイベントが始まる新潟・庄内デスティネーションキャンペーン(DC)や東京五輪といった観光の目玉を生かしながら、羽越本線の利用者を増やしていくことが欠かせない。新潟駅の同一ホーム化の記念式典に市が宣伝ブースを出展するなど、新潟県側と連携して利用を高めていきたい」と話した。
 鶴岡商工会議所の加藤淳一専務理事は「羽越本線の高速化と羽越新幹線の実現を庄内地域が一丸となって進めるべき」と言い、鶴岡市区選出の志田英紀山形県議会議長は「いなほのダイヤの一部を速達型特急に変更するなど、現在の羽越本線をうまく利活用しながら、羽越新幹線の整備を要望していくべき」と提言した。


線形改良断念なら庄内延伸を

 これに対し酒田市では、羽越本線の線形改良の事業化と併せて、同市の悲願となっている山形新幹線の庄内延伸の実現と羽越新幹線の整備を、山形県、国、JR東日本などの関係機関に引き続き働き掛けていく。
 とりわけ山形新幹線の庄内延伸には注力していく考えで、実現すれば庄内と内陸両地域の接続が飛躍的に改善するのに加え、利用者数の低迷が続く陸羽西線が廃線となる心配も無くなる。
 酒田市企画振興部長を3月まで務めていた阿部勉・同市企画部長は「羽越本線の高速化に向けては、山形県に在来線の線形改良を事業化するよう要望していく方針に変わりはない。しかし線形改良の費用対効果が低いため事業化を断念すると判断した場合は、山形新幹線の庄内延伸に向ってもよいはず」との考えを示す。
 その上で山形新幹線福島―米沢間のトンネルの早期事業化に向け、山形県とJR東日本が事業費の考え方を含め具体的な検討を始めることになったことに言及しながら「福島―米沢間のトンネル改修には1500億円の事業費が投じられる。このうち山形県がどの程度の事業費を負担するのかは今後検討するようだが、そうした事業効果を庄内地域にも波及させるよう求めていきたい」と話した。
 酒田商工会議所の弦巻伸会頭は「日本の経済力や人口減少の見通しなどを考えた場合、地域にとって最も大事なことは早くできるものから整備すること。山形新幹線の庄内延伸は羽越新幹線の整備以前に必要なもの」との考えを強調した。
 酒田市・飽海郡区選出の佐藤藤弥県議は「羽越本線の高速化は山形新幹線の庄内延伸より費用対効果が高い、と説明されてここまできたが、山形県は羽越本線の高速化を含め何もやってこなかった。力を入れてきたことといえばフル規格新幹線のことだけで、特に奥羽新幹線の整備への思いが強いように映る」と、山形県の対応を厳しく批判した。


沿線6県課長で新幹線検討

 山形県が力を注ぐ羽越新幹線のフル規格による整備では、同県や県内35市町村、各種経済団体などが16年5月に「山形県奥羽・羽越新幹線整備実現同盟(会長・吉村美栄子山形県知事)を設立。これを受け同年11月に「山形県庄内地区羽越新幹線整備実現同盟会」(会長・皆川治鶴岡市長)が、従来の羽越本線新幹線直通促進庄内地区期成同盟会を改組する形で発足した。米沢市、最上地域、山形圏域でも実現同盟会を設立した。
 加えて17年8月に青森、秋田、山形、福島、新潟、富山の沿線6県の担当課長などで「羽越・奥羽新幹線関係6県合同プロジェクトチーム」を設立。沿線地域の将来展望や費用対効果、整備手法の3項目を調査・検討し、結果を政府への要望活動などに生かす方針。


課題は見通せない開業時期

 しかし羽越新幹線の整備に向けては課題も多い。最も問題視されているのが、同新幹線の開業時期が見通せないこと。
 酒田市で会社を経営している60歳代のある関係者は「羽越新幹線が整備される時期が、一説では60年後と言われている。20年先も見通せない中、フル規格新幹線の整備運動を続けていったとしても、果たしてそれが実現可能な計画なのか、本当に需要が見込めるのかどうかに疑問を感じている」と懐疑的な見方を隠さない。
 同市の別の会社経営者は「羽越新幹線の整備は中長期計画として取り組み、現実的な対応としては在来線をどう生かして利便性を高めていくのかを検討していくべき」と指摘した。
 実際、完成にめどが立った路線のうち、北海道新幹線の新函館北斗―札幌は、開業予定が12年後の30年度。最も遅い北陸新幹線の敦賀―新大阪は、28年後の46年度ごろを想定している。
 中央新幹線を除き73年に基本計画路線に位置付けられた、羽越、奥羽を含む9路線の着工は、この28年後が目安となるが、これに整備の順番を巡る競争も加わることになる。
 莫大な事業費がかかることを懸念する声もある。北陸新幹線の長野―金沢(延長約230キロ)の総事業費は約1兆7801億円。これを1キロ当たりに換算すると約77億円。事業費は単純に1キロ当たりの費用に距離を乗じて算出することはできないが、北陸新幹線を参考に羽越新幹線の新潟―酒田間(同約168キロ)の事業費を試算すると、約1兆2936億円となる。
 現在の整備新幹線の枠組みでは、国が3分の2の事業費を負担し、地元の都道府県に3分の1の建設負担金が求められている。


酒田は鶴岡と別に運動を

 一方、山形新幹線の庄内延伸に対する山形県の見解は「現在の山形新幹線は定時性と安定輸送に課題を抱えており、そうしたミニ新幹線を庄内地域に延伸することには問題がある。一方で庄内と内陸両地域の接続を改善する必要もあり、将来的な課題」というもの。山形新幹線は、山岳地帯・福島―米沢間が最も改善の必要な地点となっている。
 JR東日本が15年5月から2年間ほどかけて行った福島―米沢間の抜本的な防災対策に向けた調査を受け、昨年12月1日に吉村県知事はJR東日本に、福島―米沢間のトンネルの早期整備と奥羽新幹線を見据えた整備の在り方などの検討を進めていくよう要望した。県とJR東日本は今後、トンネルの早期事業化に向け、財源の枠組みを含めた形で具体的な検討を始める。
 16年9月に奥羽新幹線の実現を目指して沿線6市町村でつくる「秋田県奥羽・羽越新幹線整備促進期成同盟会」(事務局・秋田県)が発足。翌年5月には山形新幹線の秋田県大曲市延伸を目指し、山形、秋田両県の沿線21市町村・団体で活動してきた「山形新幹線延伸早期実現期成同盟会」(同・新庄市)が解散した。
 このように山形新幹線を取り巻く状況が大きく変化する中、米沢市区選出の後藤源県議は「庄内と県都山形市をつなぐという観点から、山形新幹線の庄内延伸には賛成。東京までであれば、羽越本線の高速化でまとまるだろうが、酒田市が進めている庄内延伸に向けた運動は、鶴岡市とは別で取り組むべきだろう」と提言した。


時間短縮にほぼ効果なく 同一ホームの開設

 山形県は2006年3月に公表した羽越本線高速化調査の結果で、新潟駅での同一ホーム乗り換えによる酒田―東京間の時間短縮効果を6分と試算していたが、新ダイヤでは上りで平均6分25秒短くなったが、下りでは1分34秒しか短縮されていない。しかも上りの平均6分短縮は、いなほ8号の大幅なダイヤ変更によるところが大きい。同一ホーム乗り換えによる時間短縮効果は「ほとんどない」(JR東日本新潟支社広報室)のが実態である。

羽越本線 酒田-東京間の新旧ダイヤと所要時間

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