郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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再生可能エネルギー
県が開発目標値を1.5倍に上方修正
「洋上風力ありき」と批判の声

 山形県は、2030年度末までに電源と熱源を合わせた再生可能エネルギー(以下再エネ)を、原発1基分101・5万キロワット導入するとした現行の開発目標を、約1・5倍の153万キロワットに上方修正する。山形市内で3月21日に開いた、エネルギー政策基本構想見直し及び後期エネルギー政策推進プログラム第1期見直し検討委員会(委員長=吉村昇東北公益文科大学学事顧問、委員12人、以下検討委員会)の初会合で明らかにした。これに対し再エネ問題に詳しい庄内の関係者が「遊佐町沖洋上風力発電の実現を見越した上方修正」「開発ありきの視点が見え隠れする」と批判している。(編集主幹・菅原宏之)

表

増加分の76%は風力発電

 県が示した新たな開発目標と2022年度末までの開発量は表の通り。
 開発目標を見直すのは、エネルギー資源価格の高騰など社会情勢の変化への対応や、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を回収量と差し引きでゼロにすること)の実現に向け、一層の再エネ導入を図る必要があるため、と説明した。
 これを踏まえエネルギー政策基本構想見直し骨子案では、現行の101・5万キロワットから、51・5万キロワット50・7%増の153万キロワットとする開発目標を示した。
 県は目標達成による効果に①県内の総電力需要量の約5割を創出②県内世帯数40万世帯の約2倍に当たる80万世帯分の電力需要量を創出③県内二酸化炭素排出量の約2割を削減―を挙げている。
 電源のエネルギー種類別に22年度末までの開発量と、今後の開発の方向性・新たな開発目標を見ると―
 風力発電は庄内を中心に事業化が進み、22年度末までに計65基8・1万キロワットが開発されたが、現行の開発目標に対する進み具合は17・7%と低調に推移している。今後、遊佐町沖と酒田市沖で洋上風力発電の事業化が見込まれることから、新たな開発目標を現行の45・8万キロワットから13・2万キロワット28・8%増の59万キロワットとした。
 太陽光発電は固定価格買い取り制度(FIT)が始まった12年以降、メガソーラーなどの開発や家庭用の小規模設備の導入が大きく進んだことから、22年度末までの開発量は36万キロワットと、現行の開発目標30・5万キロワットを上回っている。今後の導入推進に向け、新たな開発目標を現行から11・2万キロワット36・7%増の41・8万キロワットとした。
 中小水力発電は、県・市町村・土地改良区などによる導入や大規模案件もあり、22年度末までの開発量は2・6万キロワットと、現行の開発目標2万キロワットを上回っている。民間事業者による導入拡大が期待されるため、新たな開発目標を現行から1・1万キロワット55・0%増の3・1万キロワットとした。
 バイオマス発電は、県産木材を使う発電事業者に加え、輸入木質バイオマスも使う大規模発電事業者の進出もあり、22年度末までの開発量は15万キロワットと、現行の開発目標に対する進み具合は89・8%。今後も事業導入を進め、新たな開発目標を現行の開発目標1・4万キロワットから15・3万キロワット約11倍の16・7万キロワットとした。
 地熱・天然ガス発電等は、実証事業の検討や実証実験などにとどまっており、22年度末までの開発量は0・2万キロワットと、現行の開発目標に対する進み具合は2・5%。このため新たな開発目標は現行と同じ8・1万キロワットに据え置いた。

大規模発電の展開促進

 県が策定した県エネルギー戦略(対象期間12年3月~31年3月の20年間)は、エネルギー政策の方向や開発目標を定めた「エネルギー政策基本構想」(同)と、具体的施策の展開方向を定めた「後期エネルギー政策推進プログラム」(同21年3月~31年3月の10年間、前期エネルギー政策推進プログラム同12年3月~21年3月の10年間は終了済み)の二つで構成する。
 このうち同基本構想では、目指すべき本県の姿に①再エネの供給基地化②分散型エネルギー資源の開発と普及③グリーンイノベーションの実現―を挙げ、電源と熱源を合わせて31年3月までに101・5万キロワットの再エネを導入する、とした開発目標を掲げている。
 同推進プログラムと一体的に見直す今回のエネルギー政策基本構想見直し骨子案では、目指すべき本県の姿として①と②はこれまで通りとし、③を、再エネの導入拡大や水素などの社会実装に向けた取り組みを通じた県内産業の振興などを念頭に「GX(グリーントランスフォーメーション)の実現」を目指していく、と修正した。

庄内に地域新電力を設立

 同推進プログラムでは、政策展開の視点に①大規模事業の県内展開促進②再エネの地産地消③地球温暖化対策としての再エネの導入拡大と利用の促進④地域資源活用による経済循環及び地域課題の解決⑤災害対応力の強化⑥自然環境や歴史・文化等との調和を図った再エネの導入促進―の6項目を挙げている。
 今回の後期エネルギー政策推進プログラム第1期見直し案では、①②④⑥は変えずに、③を「地球温暖化対策としての徹底した省エネの推進及び再エネ等の導入拡大と利用の促進」に、⑤を「エネルギー供給のレジリエンス(回復力)強化」に一部修正した。
 視点ごとに新たな施策の考え方・方向性と具体的施策の概要を見ると―
 ①では発電事業者と地域との信頼関係構築の下、地域の合意形成を促進など。
 ②では庄内地域への地域新電力の設立に向けた支援や、地域新電力間の連携による供給体制の構築など。
 ③では徹底した省エネと再エネの導入拡大・利用促進など。
 ④では再エネ導入を産業振興や地域活性化につなげ、地域に雇用・利益などの付加価値を創出など。
 ⑤では自家消費型太陽光発電や蓄電池の導入、電動車の活用などを推進など。
 ⑥では再エネの適地誘導に関し、県での効果的な制度の在り方を検討など。
 5月に検討委員会の第2回会合を開き、意見公募を経て、6~7月にエネルギー政策基本構想見直し版と後期エネルギー政策推進プログラム第1期見直し版を公表する。後期推進プログラムは26年度と29年度にも見直す予定。

無駄な発電、供給基地化を懸念

 県が示したエネルギー政策基本構想見直し骨子案と後期エネルギー政策推進プログラム第1期見直し案に対し、環境問題に詳しい関係者や市民の間からは、疑問や批判、問題点などを指摘する声が上がっている。
 樹木医・松保護士で酒田市景観審議会前委員の梅津勘一氏は、開発目標を見直す背景に「カーボンニュートラルの実現に向け、一層の再エネ導入を図る必要があるため」と説明していることを取り上げ、事実上、遊佐町沖洋上風力発電の実現を見越しての上方修正と思われる、と指摘する。
 その上で電源の開発目標に触れ「稼働分と計画決定分を除き、今後必要な開発量66・7万キロワットのうち、風力発電の50・9万キロワットは76・4%を占め、規模的に遊佐町沖洋上風力発電に伴う計画量を勘案したものと推測できる」との見方を示した。
 そして今回の見直し案は、いくら必要かという目標ではなく、いくら発電できるかという見込みに合わせての上方修正、と指摘し「目標値には酒田市沖洋上風力発電は反映されていない。従って26年度の見直しでは、酒田市沖の計画に合わせて、さらに上方修正される可能性がある。いくら再エネ電力を増やしても、火力発電などのベース電源は簡単に無くすことはできず、再エネ電力が無駄になる『出力制御』の問題もどう解決するつもりなのか」と、再エネの供給基地化を目指す県の姿勢に疑問を呈した。
 梅津氏は、後期エネルギー政策推進プログラム第1期見直し案にも言及し、県エネルギー戦略の実績として、洋上風力発電に関し「地域の議論に基づく合意形成を重視した先駆的な取り組みとして全国的にも高い評価を得た」と記している点を問題視した。
 そして「現場の感覚とは全く乖離しており、私たち住民がどんなに声を上げても、決して届くことはない強引な進め方だと感じてきた。大規模事業の県内展開促進の施策の考え方・方向性に『発電事業者と地域の信頼関係構築の下、地域の合意形成を進める』とあるが、住民との信頼関係を築くべきは、今後選定される発電事業者ではなく、まずは県、そして市町の行政である」と厳しく批判した。

県内地域間のバランス欠く

 NPO法人パートナーシップオフィス副理事長で酒田市環境審議会前委員の金子博氏は、県エネルギー戦略の策定から12年が経ったが、再エネの供給基地化という目指すべき本県の姿について、県民にどこまで浸透してきているのか疑問、と述べ「エネルギー問題を自分事として考えてもらうためにも、アンケート調査などを通じて県民意識の実態を把握することも必要ではないか」と提言する。
 その上でエネルギー政策基本構想見直し骨子案に触れ「新しい再エネ開発目標値の増加分(電源設備容量)のうち76%が風力発電で、そのうちの約9割で遊佐町沖の洋上風力発電事業を見込んでいるなど、県土全体でのバランスの取れた開発からは逸脱している」と苦言を呈した。
 そして「地域住民との対話では法定協議会を通じた合意形成を図るのみで、事業への懸念を示す住民に真摯に向き合う方策も示されず、供給基地化に向けた県の覚悟は感じられない。公開討論会の開催など、具体的な施策を示すべきではないか」と指摘した。
 金子氏はさらに、情勢変化の一つとなる県内人口の減少と、県エネルギー戦略の関連性にも言及が無く、開発ありきの視点が見え隠れしている、と批判した。
 そして「『卒原発』を背景にした県エネルギー戦略であるならば、人々の無制限な欲望を満たすためのエネルギー需要を賄うというような思想ではなく、エネルギー需要を減らすための政策との両論を併記するべきではないのか」と話した。

県民の負担増には触れず

 酒田市の会社経営者は「再エネ関連施設には迷惑施設の側面もあるが、県が示した二つの見直し案にはこれまで同様、マイナス面には触れず、プラス面しか記載していない」と指摘する。
 そして固定価格買い取り制度によって電力会社などが買取りに要した費用を、電気料金の一部として消費者が負担する再エネ賦課金に言及し「再エネは導入すればするほど電気料金は高くなり、県民負担は増えていくが、どちらの見直し案にも、そうした問題は記されていない。県は、これに関して県民から理解が得られるよう、説明を尽くすべき」と話した。

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