郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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インタビュー
人口減や産業振興に力注ぐ
新遊佐町長 松永裕美氏(57)

 時田博機前町長の死去に伴う3月24日投開票の遊佐町長選で初当選し、新たなかじ取り役に就いた松永裕美新町長(57)は4日、本紙の単独インタビューに応じ、人口減少への対応策や、同町沖洋上風力発電事業を巡る住民との合意形成、庄内の高速交通網整備に向けた考え方などを語った。洋上風力の合意形成では「拙速に進めることなく、丁寧に対話を重ねていく」との考えを強調。日本海沿岸東北自動車道(日沿道)の早期全線開通では、財務省や国土交通省など関係各省への要望活動を積極的に展開する方針を明らかにした。(編集主幹・菅原宏之)

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酒田との合併念頭に無く

―町長選で少子高齢化や人口減少は町の課題との認識を示していた。人口減少対策で注力していく施策は。
 子育て環境を充実させることは、町の存続という観点からも極めて重要ととらえている。そして子育てにおける一番の課題は経済的な負担の問題と考える。
 本町では、従来から出産育児金50万円やゆざっ子誕生祝い金第1子と第2子10万円、第3子20万円など、町独自の子育て支援メニューを充実させてきた。
 出産時の支援に加え、今後は小学校の給食費無償化を実現させていくほか、子育て世帯の経済的負担を軽減するため、町が大学・専門学校などへの進学に伴う教育ローンの利子補給をしていきたいと考えている。
―人口減少に歯止めがかからない現状では、酒田市との市町村合併が再度注目を集める可能性がある。
 北庄内には庄内北部定住自立圏構想があり、酒田市とも鳥海山・飛島ジオパークなど、目的に応じて推進協議会をつくっている。そうした連携のパイプは太くしていくが、先代の町長が独自に頑張ろうと英断したことで今があり、私の時代で合併を考えることは、現時点で念頭には無い。
 ただ他の市町との協力関係は、今まで以上に強化していかなければならないと思っている。

洋上風力は丁寧に対話

―遊佐町沖洋上風力発電を巡っては、国が発電事業者の公募を始めているが、住民団体から不安や疑念の声が出ている。住民との合意形成をどう図るつもりか。
 洋上風力発電事業については、町民の間にさまざまな考えがあることは承知している。その上で大切だと考えているのは、遊佐町のためになるということ。そして情報が正確に分かりやすく多くの人に届くということ。そのため選ばれた発電事業者に対しては、対話の機会を求めていきたい。
 また再生可能エネルギーの必要性などに関し、町民に浸透していない部分は、昨年発足した遊佐地産地消エネルギー協議会と連携して、対話の場や情報交換の場などを作っていく。
 本町が持続可能な発展を遂げていくための数少ない好機ととらえ、立ち止まることはできないが、拙速に進めることなく、丁寧に対話を重ねていきたい。
―新道の駅が2027年初頭に開業予定だが、前町長との違いを打ち出す考えは。
 ここから整備内容や運営方法などを、大きく方向転換する予定は無い。しかし事業を進めていく中で、問題が見つかった、良いアイデアが出てきたといった場合には、スピーディーに改善や修正、できる限りの工夫を前向きに検討したい。
 「鳥海ふらっと」の跡地利用については白紙の状態で、今後の課題となる。

日沿道全通に要望活動

―日沿道の早期全線開通に向けた対応策は。
 各県選出の国会議員や他自治体とも連携しながら、財務省や国土交通省など関係各省に対する要望活動を積極的に展開していきたい。
 新潟、山形、秋田の3県合同で昨年開催した日本海沿岸東北自動車道沿線市町村建設促進大会を参考に、関係各省に地域の熱意を直接伝える機会を設けるなど、愚直なまでに要望活動を展開していくこと以外に方法は無いと思っている。
―鉄道の高速化問題にどう取り組んでいく考えか。
 羽越、奥羽両新幹線の整備では、沿線6県でつくる6県合同プロジェクトチームが2021年6月に調査結果を取りまとめ、整備の妥当性を確認した、と発表している。このように実現に向けた足掛かりはあり、県との連携も密にしながら、実現に向け要望活動に前向きに取り組んでいく。
 山形新幹線の庄内延伸については、これまで携わってきた先輩たちの声を聞く時期にきていると思う。新庄から酒田への延伸はとてもありがたいことなので、先輩たちには、ぜひ力を貸していただきたい。
―庄内空港の活性化策をどう考えているか。
 ジェットスター・ジャパン(株)の庄内便復活は県で検討しており、国際チャーター便や路線の拡充を含め庄内空港の活性化は、町の観光人口、交流人口、関係人口のすべてに直結する。
 交通需要を創出して、航空会社への働き掛けを進めていくためにも、まずは庄内、遊佐町の魅力を最大化させ、その発信を優先課題として取り組んでいきたい。

水産資源でブランド確立

―ウイスキーは新たな地域資源になる可能性がある。地域振興にどう生かす。
 まず取り組むべきは▼魅力の発信▼地域資源の活用▼観光の推進―と考える。
 魅力の発信では、町と遊佐蒸留所、月光川蒸留所を含めた地域の魅力を広く発信するため、SNSなどを利用してウイスキー製造の魅力や風景、歴史などを積極的に紹介していく。
 地域資源の活用では、蒸留所の見学体験や地元特産品との連携など、地域の魅力を町が提供していく仕組みづくりに取り組む。
 観光の推進では、蒸留所に観光客を呼び込むため、催事や祭典の開催、地域間交流などを通じて、町民も楽しめるにぎわいをつくる。
―サケや岩ガキに加え、マルハニチロ(株)のサクラマスと鳥海あわびの陸上養殖など水産資源も豊富。地域振興にどうつなげる。
 遊佐産ブランドを確立することが重要。品質や鮮度へのこだわりを発信し、遊佐産ならではの価値を高める策を講じていきたい。
 観光客向けには養殖場の見学や体験プログラムの提供、地元の飲食店での遊佐産水産物の提供など、観光資源としても活用する。
 さらに町外、県外、海外の市場を視野に入れて広めていけば、地域経済の活性化が期待できることから、品質管理を徹底して競争力を高め、販路の拡大にも挑戦していきたい。

米や農産物を全国に発信

―任期の4年間で実現したいと考えていることは。
 基幹産業の農業を全面的に支援していく。具体的には、遊佐の米や農産物、花卉などを今以上に全国に発信できる体制を構築する。また近年の異常気象による高温障害などで、生産者が苦しまないような対策を、県・国と連携し講じていく。
 加えて高齢者の移動手段の確保や居場所づくりに取り組み、子育て世代からシニア世代まで、誰もが暮らしやすい町づくりを進める。
―町長選での結果を踏まえ、どのような町政運営を心がけていくつもりか。
 期待に応えられるよう、誠心誠意働かせていただく。一方で、多くの人が相手候補を支持した事実を真摯に受け止め、町民との対話を丁寧に重ね、町民の声を広く深く聞いていきたい。
 政策を進めていく過程では、議員一人一人の考えを尊重し、町にとって何が重要なのかを最優先に考えながら、遊佐町らしいまちづくりを進めていく。
―次期県知事選、次期衆院選と参院選への対応は。
 町長選でお力添えをいただいた方々が立候補される際には、自分ができることを探し、お手伝いをさせていただきたい。

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