郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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公共施設の現状[上]
酒田は適正化の成果乏しく
鶴岡は施設数おおむね抑制

 酒田市は保有する公共施設を廃止や統合、複合化などを想定した適正化を進めているが、施設数は減る一方で総延べ床面積は増えるなど、成果に乏しい状況が続いている。同市の矢口明子市長は昨年8月の本紙単独インタビューで「公共施設の管理運営費がかさんでいるのが、財政難の最大の要因」と述べ、適正化の遅れが財政健全化に向けた課題の一つ、との認識を示していた。一方、鶴岡市の公有財産建物の延べ床面積は、昨年3月末で前年同期から3・3%減るなど公共施設数はおおむね抑制されている。(編集主幹・菅原宏之、編集部課長・土田哲史)

 酒田市   厳しい財政運営が背景に

 酒田市が公共施設の適正化を進めている背景には、人口減少・少子高齢化による市税の減少や、地方交付税の合併算定替えの終了などで厳しい財政運営が続く中、現在保有している公共施設をすべて保有し続け、改修・更新していくことは難しい、という事情がある。
 これを踏まえ市は2015年3月に、施設用途別に公共施設の量・サービス・運営などの方針を定めた「市公共施設適正化基本計画」(計画期間15~54年度、以下基本計画)を策定。
 基本計画で定めた方針や削減目標などの実現に向け、16年3月には個別施設の適正化方針を示した「市公共施設適正化実施方針」(同同年度、以下実施方針)を策定した。
 これらに加え、公共施設全般の計画的な管理に向けた基本方針を定めた「市公共施設等総合管理計画」(同17~27年度、以下管理計画)も、17年3月に作成した。18年4月には行動計画として、実施方針を基に各施設の適正化方針を3年単位で毎年度示した「市公共施設適正化アクションプラン」(同15~27年度、以下アクションプラン)を作成し、実施に向け取り組んでいる。
 市がアクションプランの計画期間中に、利用状況や運営経費、建物の状況などを総合的に判断し、予定を含め適正化の実施対象としている公共施設は、計109施設=表1参照=。

表

 22年度までの実施状況は▼15~22年度に実施済みが67施設▼23~25年度に実施予定が9施設▼26~27年度の実施対象が33施設となっている。
 このうち23~25年度に実施予定の9施設の適正化方針を現時点で見ると―①旧食肉処理場は15年度に廃止し、建物は解体する②眺海の森天体観測館(コスモス童夢)は23年度に廃止し、建物は後年度に解体を検討する③本楯コミュニティセンターは継続し、建物を解体して24年度までに講堂を新たに整備する④八幡体育館は継続し、耐震補強工事に多額の費用がかかることから、25年度までに改築する⑤川南アパート(第一)は23年度に廃止し、建物は解体する⑥飛島斎場は20年度に廃止し、建物は解体する⑦八幡斎場は20年度に廃止し、建物も民間事業者などによる利活用が見込めず解体した⑧飛島教員住宅1・2号棟は廃止し、建物は解体する⑨同3号棟は廃止し、建物は解体する―としている。
 市では、こうした取り組みを通して公共施設の適正化を進めているが、成果は乏しいのが実情のようだ。

施設減少も総面積は増加

 市が保有している公共施設数は、行政財産と普通財産を合わせて21年度は643施設と、基本計画で適正化の対象としていた13年度の650施設から7施設1・1%減っている。
 これに対し公共施設の総延べ床面積は、21年度末で48万2168平方メートルと、13年度末の47万8526平方メートルから3642平方メートル0・8%増えている=表2参照=。

表

 市の公共施設の市民1人当たりの延べ床面積は、13年度末で4・4平方メートルだった。これは、全国市区町村平均の3・4平方メートルを1・0平方メートル29・4%上回り、県内の山形、鶴岡、新庄、寒河江、上山、東根、尾花沢、南陽の8市平均の4・2平方メートルを0・2平方メートル4・8%上回る。
 それが、人口減少が進む中で延べ床面積が増えたため、市の20年度末の市民1人当たりの延べ床面積は、13年度末から0・5平方メートル11・4%増えて4・9平方メートルとなっている。
 このため、国が示す「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針」が改訂されたことを踏まえ、22年3月に管理計画を改訂(23年2月に一部改訂)し、計画の効果をより高めようと数値目標を設定し、将来の更新費用も試算し直した。
 数値目標のうち公共施設の年間行政費用は、19年度に35億7900万円だったものを、27年度までの計画期間中に5・0%削減して34億円以内とする。総延べ床面積は20年度の49万2314平行メートルから、5・0%削減して46万7千平方メートル以下を目指すとした。
 計画期間の40年間に一般会計で負担する公共施設等の更新費用は1773億1千万円で、将来的に確保可能な一般財源の更新財源想定額は1100億円。更新費用から更新財源想定額を差し引いた不足額は、一般会計で673億1千万円と試算している。
 公共施設の適正化を巡っては、矢口明子市長が昨年8月の市長選後の本紙単独インタビュー(23年9月8日号掲載)で、財政難を招いた要因を問われ「一番の要因は、人口が急激に減っているのにも関わらず、新しい施設をたくさん建て、その割には既存の施設を減らしてこなかった、ということ。つまり人口減少に見合わないくらいの公共施設を抱え込んでしまい、管理運営費がかさんでいるのが、市財政を苦しめている最大の要因」と述べ、改善に向け公共施設の複合化・多機能化を進めていく方針も示した。

管理運営に充当の税金増

 市では、公共施設の管理運営に要した費用と、その財源に利用者による使用料等や税金等がどの程度充てられているのか、どの程度利用があるのかなどを定量的に把握するため、コスト計算書を作成している。
 管理運営費が生じる公共施設のうち212施設を対象に作成した22年度の同計算書によると、使用料収入とその他収入を合わせた収入合計は14億7374万6千円で、光熱水費や施設修繕費などで構成する管理運営費と事業運営経費を合わせた支出合計は50億6051万円8千円(運営費)だった=表3とグラフ参照=。

表・グラフ

 収入合計から支出合計を差し引いた収支は35億8677万2千円の赤字と、同数の212施設を対象に作成した20年度の収支32億4307万2千円の赤字から、3億4370万円10・6%悪化している。
 収支の赤字分には税金等一般財源が充当されているが、充当率は70・9%と20年度の71・7%から0・8ポイント減っている。しかし充当額自体は増えており、市民への負担が年々重くなっている実態が浮き彫りとなっている。
 齋藤康一・市財政課長は「これまで(公共施設の)適正化に取り組んできたが、廃止や統合することが難しい施設が多く残っており、利用率が低い施設の在り方も課題となっている。このような状況を市民から理解してもらうためにも、23年度に続いて24年度も市公共施設適正化懇談会を開催することにしている。22年度からの電気料金や物価の高騰、賃金の上昇などにより、管理経費が増加しており、一層の適正化の進捗が必要になっている」と話す。


 鶴岡市   総床面積は前年より減少

 鶴岡市財政課によると、同市の公有財産建物の延べ床面積は、2023年3月末時点で66万6718平方メートルと、前年同期の68万9505平方から2万2787平方メートル3・3%減った。
 床面積の算定方法が16年から現行方式に変わったため、比較可能な16年比では9968平方メートル1・5%増となった。23年3月末時点での市民1人当たりの延べ床面積は5・57平方メートルで16年3月の5・02平方メートルから0・55平方メートル増えた。
 16~22年は鶴岡市文化会館の建て替えや、いこいの村庄内の取得、鶴岡市屋内多目的運動場の建設などで増加傾向が続いたが、23年はコミュニティセンターの改修や学校の統廃合などで減った。
 23年の内訳を見ると、コミセンなどを含む「公共用財産その他の施設」が最も多く26万4750平方メートルで、前年比1万5274平方メートル5・5%減った。
 次いで、学校が21万7687平方メートルで6224平方メートル2・8%減り、公営住宅が5万8081平方メートルで同26平方メートル0・1%減った。庁舎は3万4737平方メートルで増減無しだった。
 統合によって閉校した14小学校のうち7校は、自治会組織などを指定管理者として、コミュニティセンターなどに転用している。他の6校はグラウンドや体育館などの一部施設を自治会組織などに無償で貸している。利活用が決まっていないのは、旧羽黒第一小学校のみ。
 自治会組織に貸与している学校の土地と建物は市が所有し、大規模な修繕は市が行うが、施設で使う消耗品費は自治会側が負担している。
 同市財政課の工藤礼子公共施設再編調整室長は「公共施設の数はおおむね抑制されており、目立って増えていることはないと認識している。市民のニーズを見据えながら、市朝日庁舎と消防署朝日分署の合築などのように複合化を進め、公共施設全体の総量を抑えていきたい」と話した。

表・グラフ

更新費用は年74億円と試算

 同市は「鶴岡市公共施設等総合管理計画」(計画期間16~45年度)を17年に定め、23年に改訂した。同計画によると、築31年以上の建物は15年度末時点で28・9%を占める。建物をそのまま保有し続けた場合、築31年以上の建物の割合は、25年度に55・6%、35年度には84・1%に達する見込み。
 建物の更新費用は、16年からの40年間で2967億1千万円になると試算しており、1年当たりの平均費用は約74・2億円。さらに屋外施設や道路などのインフラを含めた公共施設全体の更新費用は6800億3千万円になる。
 このことから同総合管理計画には「公共施設の総量を計画的に適正化していかなければ、更新費用がねん出できなくなる。複合化、集約化、廃止などで更新費用を軽減し、更新費用が特定の時期に集中しないように平準化する必要がある」と記述している。
 市財政課によると、公共施設ごとの維持管理費は、決算の複数項目にまたがるため計算が難しいとして、酒田市のような公共施設ごとの収支を出していない。
 工藤室長は「具体的な額は算定していないが、公共施設が増えれば財政を圧迫することは当然。無駄な公共施設で財政を圧迫することがないように、危機感を持って対応していく必要がある」と話した。

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