4~5月のクマの目撃件数は、鶴岡、酒田両市で前年同期を上回り、鶴岡市では過去最多のペースで推移している。鶴岡市では学校や住宅が密集する市街地に相次いで出没し、酒田市でも、若竹町2丁目の寺院の床下に6月3日夜から6日間もこもっていたクマ1頭が、6月8日にようやく捕獲された。クマは7月にかけて行動が活発化することから、今後も注意が必要となる。さらに両市ではイノシシの被害も急拡大し、対応に頭を悩ませている(編集部次長・土田哲史)
鶴岡市農山漁村振興課によると、同市の4~5月の目撃件数(痕跡を含む)は50件。前年同期の6件より44件733・3%増と大幅に増えている。過去10年で最多だった23年同期の26件よりも24件92・3%多く、過去最多のペースで推移している。
酒田市環境衛生課によると、同市の4~5月の目撃件数は23件。前年同期の11件より12件109・1%増えている。23年同期の33件より10件少ないが、過去10年間では2番目に多い。
両市で目撃件数が増えているのは、住宅が密集する市街地や、比較的人口が多い海沿いの地域に出没しているため。同じクマを見た複数の情報が寄せられるため、件数が多くなっている。
鶴岡市では5月15日に日枝で目撃されると、翌16日も日枝に出没し、さらにみどり町、小真木原町、双葉町、家中新町で次々と目撃された。同一のクマかは分からないが、16日に家中新町で見つかったクマは、中高生や住民、捜索活動を行う市職員らに危害を加える危険性が高まったため、やむなく殺処分された。
ところが17日以降も市街地では目撃が相次ぎ、17日に苗津、18日にほなみ町、19日に東原町、25日に伊勢原町と連日出没した。
海沿いの地域では、4月10日に由良で目撃され、それ以降も加茂、湯野浜、三瀬、鼠ケ関、小岩川などに複数回出没した。
酒田市では4月17日に宮野浦に出没し、翌日以降も緑ケ丘、十里塚、浜中で目撃された。24日に宮野浦に出没したクマは、最上川と酒田港を泳いで横断し、日和山公園第3駐車場付近に上陸、再び泳いで旧宮野浦海水浴場へ戻っていった。
6月8日に若竹町で捕獲されたクマは、3日午後8時ごろに寺の床下へ隠れる様子が、防犯カメラによって確認された。警察が現場付近の住宅街への立ち入りを規制し、クマをバリケードで封じ込めた。8日午後7時ごろに箱わなで捕獲し、9日早朝、山に放した。推定3歳の雄だった。
クマが居座った酒田の寺
両市によると、クマが市街地など人の多い地域に出没する要因は、分かっていない。春は若い雄が繁殖のために雌を探し回る時期だが、鶴岡市家中新町で5月16日に殺処分されたクマは高齢の雌だった。
このクマは午前7時55分ごろ、鶴岡工業高校グラウンド北側の道路付近で目撃された。民家のガラス窓を破って侵入しようとした跡があり、パニックを起こして暗がりに隠れようとした可能性がある。
市職員、警察、猟友会がチームを組んで目撃場所周辺を警戒していたところ、午後4時半ごろに再発見の報が入った。クマは袋小路に追い詰められて逃げ場を失ったためか、市職員に襲いかかろうとしたため、警察官の命令を受けた猟友会員が猟銃で射殺した。
市街地での発砲は異例だがやむを得なかった。麻酔薬と吹き矢も携行していたが、吹き矢は射程が短く、麻酔針が刺さったとしても薬が効くまでには時間がかかるため、麻酔では対処できない可能性が高かった。
鶴岡市農山漁村振興課によると、クマは夜~翌朝にかけて行動する傾向がある。人気の無い夜に市街地へ侵入したクマが、朝になって人の気配に気付き、パニック状態になって倉庫などの暗い所や草むらなどに隠れようとする、と言う。
同課では「目撃情報があったら、朝の散歩や畑仕事、ごみ出しなどでは十分に注意してほしい。行動範囲が日に10~20キロと広いため、目撃情報のあった場所以外でも注意が必要。水田の中に点在する屋敷林は格好の隠れ場所となるので、特に注意してほしい」と話す。
同課ではクマが目撃された時の対応策として▼家や倉庫の扉に施錠する▼施錠できない出入口は網や布、ビニールシートなどでふさぐ▼自動ドアは手動に切り替える▼隠れ場所になる水路や庭のやぶをあらかじめ刈っておく▼目撃したら市や警察に速やかに連絡し、できる限り現場を保存する―ことを挙げる。
さらに人的被害を避けるため、目撃場所と周辺では▼視界が開けた場所を通る▼やぶに近づかない▼野次馬で現場周辺に近づかない―ことを求めている。
今春の特徴は、冬眠しないクマがいること。通常、11月~翌年3月ごろが冬眠期とされるが、鶴岡市には昨冬の24年11月~25年3月に、目撃情報が15件寄せられた。真冬の1月に5件、2月にも3件あった。過去10年で最多だった23年度は、23年11月~24年3月に22件あったが、11月に19件と集中していたため、1~2月に限れば昨冬が最多だった。
酒田市でも24年11月~25年3月に12件あり、1月に5件、2月にも1件あった。1〜2月に限れば過去10年で最多だった。
冬眠しない理由としては暖冬が考えられるが、気象庁の統計によると、25年の酒田市の1~3月の日平均気温は4・0度で、24年の4・5度、23年の4・1度よりも低く、山には十分な雪も降ったことから、暖冬のせいとは言えそうにない。両市でも冬眠しない理由が分からないと話す。鶴岡市によると、冬眠しない傾向は秋田県をはじめ東北各地で見られる。
両市では、イノシシの増加による被害にも頭を悩ませている。
イノシシは体が太くて足が短いため雪に弱く、東北では生息できないと考えられてきたが、ここ数年で北限が急拡大している。イノシシがいなかった庄内では十分な対策が不足し、急拡大に農家や自治体の対応が追いついていない。
イノシシはクマに比べて繁殖力が高く群れで行動するため、わなを設置して捕獲しようとしても、数が足りない。たとえ数を増やしても、わなに敏感なため捕獲は難しい。
農作物を守るには電気柵や壁で畑を囲うしかないが、電気柵は初期投資がかかり、壁を設置しても、冬に積雪と強風にさらされる庄内では、すぐに壊れてしまう。
酒田市環境衛生課では「酒田にイノシシが現れたのは10年ほど前からで、防衛するための知識や経験が不足している。捕獲の実績がある自治体に情報提供を求めることが必要。農家単独での対応は困難なので、集落単位など広範囲で連携することも必要になる」と話す。
鶴岡市農山漁村振興課では「イノシシは完全に定着したとみていい。農作物を守るには畑を囲うしかないが、手間や労力、費用が少なくてすむ対策を考える必要がある」と話した。