郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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遊佐町沖風力発電
住民団体が県に見直し求め要望書
反対署名2936筆も提出

 洋上風力発電の事業化に向けた3段階ある手続きのうち、最終段階となる「促進区域」に国が指定し、1月から発電事業者の公募を始めた遊佐町沖を巡り、地元の住民団体は15日、吉村美栄子県知事に事業の見直しを求める要望書と、同町を中心に県内外から集めた計2936筆の反対署名簿を提出した。要望書では「住民のほとんどが事業の概要を知らされていない」と指摘し、住民説明会を開くよう強く求めた。同町沖の洋上風力発電事業に対しては、庄内地域の在住者でつくる別の住民団体も県や町などに意見書を提出しており、事業を疑問視する動きが広がりを見せている。(編集主幹・菅原宏之)

住民説明会の開催を要望

 要望書と反対署名簿を提出したのは、遊佐町を中心に全国各地の住民でつくる「山形県鳥海山沖の巨大風車はいらない有志の会」(伊藤えり子世話人、会員256人)。当日は伊藤世話人を含む遊佐町2人、酒田市2人、米沢市1人の会員計5人が県庁を訪れ、槙裕一・県エネルギー政策推進課長に、要望書と反対署名簿を手渡した。同会では、要望書と反対署名に対する吉村県知事の見解を、後日メールで送付するよう求めている。
 要望書の主な内容は―
 ①住民のほとんどに、遊佐町沖洋上風力発電事業の概要が知らされていない。こうした状況から、住民に対する説明会を開催する。
 ②全国的に風力発電機から発生する低周波音によって、健康被害を訴える人が多数出ている。人体への影響、動植物の生育、生命に関わる影響を調査する。
 ③洋上風車の事業化想定海域は渡り鳥の飛行経路と重なるため、バードストライク(鳥類の衝突)が多数発生すると考えられる。風車によるバードストライクについて詳しく調査する。
 ④鳥海山は日本海と一体であり、日本海に巨大風車が建ち並べば、先人が守り続けてきた景観は破壊される。蔵王の景観を守る決断をした県知事は、庄内の鳥海山と日本海も守るべき景観であることを理解する。
 ⑤洋上風車の建設によって、鳥海山を源とする伏流水の環境が破壊されることを、農家は危惧している。伏流水の環境をさらに調査する―ことなどを求めた。
 そして、能登半島~新潟~山形~秋田県沖には多くの海底活断層が確認されていることに触れ、「鳥海山沖に巨大風車が建ち並び、大地震が起これば遊佐町と酒田市は甚大な被害を受けると想像される」と指摘し、遊佐町沖洋上風力発電事業を再考・見直してほしいと要望している。
 反対署名は、遊佐町を中心に酒田市と山形県内のほか、県外からも寄せられた。

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要望書を手渡す伊藤世話人

県に補償支払う考え無く

 その後の意見交換では、伊藤世話人が「住民が知らないうちに、事業化に向けた手続きが進んでいる。建設する洋上風車の大きさが陸上風車程度と思っている住民もいることから、住民説明会を開いて細かく説明してほしい」と訴えた。
 これに対し槙課長は「これまでも町全体の説明会や地区別の説明会を開いてきたが、我々の説明・発信の仕方に足りない部分があった。貴重な指摘と受け止め、遊佐町と共にしっかりと対応していきたい」と述べた。
 伊藤世話人はまた「洋上風車が建ってしまえば、漁業者は操業できなくなってしまう。ある漁業者からは『補償金はもらうにしても、誰も漁業をやらなくなる』と言われた」と話し、県の考え方をただした。
 槙課長は「漁業と折り合いがつく、漁業も持続できることが絶対条件になっている。漁業権を放棄してもらう考えは取らないので、一時金や補償金という形でお金を支払う考えは無い。できなくなる漁法もあるが、遊佐町沖で操業している漁業関係者とは、新しい技術・漁法も取り入れ、これまで以上に活気ある漁業を目指していくための協議をしている」と語った。
 出席者からは「大地震への対策は考えられているのかどうかを聞きたい」「低周波音に対する懸念には細かく対応してほしい」といった質問と要望も出た。
 槙課長は地震対策について「国には地震で倒壊しないための技術的な安全基準があり、それをクリアしないと最終的に(風車は)稼働しないことになっている。国も安全対策を講じていることを、もっと住民に知らせるべきと改めて国に伝えていきたい」と語った。
 低周波音については「環境省の基準では、超低周波音・低周波音と健康被害・影響に、科学的因果関係は無い、とされている。ただ、これから知見を積み重ねていくという考え方はあるので、あくまで国の統一的な考え方に沿って、対応していく」との考えを示した。

選定事業者に対応求める

 意見交換を踏まえ槙課長は「遊佐町沖についてはすでに、地元の町長、漁業関係者、県を含め法定協議会の中で『事業化していきましょう』との合意形成が図られている。環境や健康、景観への影響といった懸念に関しては、統一的な国の基準などを(法定協議会の)意見とりまとめに盛り込み、それへの対応を選定された発電事業者に求めていく。町民に伝わっていないこともあるので、周知に力を入れていきたい」と述べた。

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