郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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酒田市
市民の間に波紋広がる
矢口明子市長の10%減給巡り

 矢口明子酒田市長の月額給与と期末手当を、4月から任期満了となる2027年9月5日まで10%削減するとした同市の決定を巡り、市民の間に波紋が広がっている。市は削減の理由に、厳しい財政状況と昨年7月の大雨災害を踏まえ復旧復興の経費に活用することを挙げている。これに対し市民からは「大雨災害の復旧復興ならば、市長だけが給与を減額するのはおかしい。市特別職の副市長・教育長と市議会議員、管理職も足並みをそろえて減額するべき」「八幡体育館の建て替え凍結や八幡、松山、平田3総合支所の機能縮小など見直すべき事業は多い。市財政の健全化に向けた市長の本気度が伝わってこない」といった声が上がっている。(編集主幹・菅原宏之)

任期まで356万円を減額

 矢口市長の月額給与と期末手当を任期満了まで10%削減する、とした市特別職の職員の給与等に関する条例の一部改正案は、酒田市議会3月定例会最終日の3月19日にあった一般質問終了後に、追加提案された。
 提案理由を求められた矢口市長は「厳しい財政状況と2024年7月25日からの大雨災害で大きな被害を受けた市民の状況を鑑み、市長の在任期間中の給与を減額し、復旧復興の経費に活用するため」と説明した。

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減給理由を説明する矢口市長

 その後、同改正案は市議会総務常任委員会(冨樫覚委員長、委員7人)に付託され、休憩を挟み再開後に冨樫委員長が「原案を妥当と認め、可決すべきものと決定した」と報告した。
 この総務常任委員長の報告に対する質疑と討論は無く、採決でも異議が出なかったことから、同条例案は原案通り可決した。
 市長の3月までの給料月額は91万1千円、年2回支給される期末手当は年間363万4890円。それが任期満了まで、給料月額は9万1100円、期末手当は年間36万3489円それぞれ減額されることになる。
 任期満了までの削減額は、給料が計265万4323円、期末手当が同90万8725円で、双方を合わせた削減総額は計356万3048円となる。
 矢口市長の今回の対応を巡っては、同市長が以前から自身の給与を減額したいという強い思いを持っていたようだった、と指摘する声が多く聞かれる。
 複数の市議会議員によると、矢口市長は当初、削減の理由に物価高騰と思うように人口減少を抑制できないことを挙げていた。
 そして「(自身の)給与を10%削減したいが、市特別職の副市長・教育長・市議会議員は対象外とし、部課長など管理職も削減しない。(削減は)自分だけにしたい」などと説明したという。
 矢口市長から当初の説明を聞いた保守系のある市議会議員は「市長の給与削減は、人口減少で成果が出ていないことに対する責任を取ったような印象を受けた。削減理由は最終的に『厳しい財政状況と大雨災害の復旧復興の経費に活用する』に落ち着いたが、この理由は後付けに近いものだったように見える」と指摘した。

特別職、管理職も同一歩調を

 矢口市長が削減理由の一つに「大雨災害の復旧復興の経費に活用する」ことを挙げていることに、市民の間からは批判や問題点を指摘する声が聞かれる。
 酒田市地域福祉課の担当者によると、県内外から同市に寄せられた義援金、支援金、ふるさと納税を通じた支援金の総額は、3月31日現在で計1億2398万36円に上っている。
 内訳を見ると、被災者に配分する義援金が7258万8050円、市の復旧復興や防災対策などの原資に充てる支援金が41件3615万4619円、ふるさと納税を通じた支援金が1511件1523万7367円となっている。
 企業経営に精通した酒田市内のある建設関連会社の幹部は「酒田市に対して県内外から1億円を超える義援金や支援金が寄せられているのに、市政運営の一翼を担う副市長と教育長、市議会議員など市の特別職、部課長など管理職が矢口市長と同一歩調を取らないのはおかしい。矢口市長は市職員を含め自分以外の人件費の削減にも踏み込んでいくべきで、このままでは市長のパフォーマンスと受け止められても致し方ない」と厳しく批判する。
 山形県政や酒田市政の事情に詳しい70歳代のある政党関係者も「大雨災害の復旧復興の経費に活用するのが給与削減の理由なのだとすれば、矢口市長だけでなく、市の特別職や管理職も足並みをそろえ、期限を定めて給与を減額するべき。こうした状況では市長と市の特別職、管理職との間に一体感が無く、矢口市長1人が浮いている印象は拭えない。市長が削減する356万円で何ができるのか疑問も残る」と指摘した。
 酒田市内の60歳代のある市民は、酒田の花火実行委員会(実行委員長・矢口市長)が昨年10月に公費約150万円を使って打ち上げた酒田元気応援花火に言及し「大雨被害の復旧復興を最優先に考えなければならなかったはずで、花火を打ち上げている場合ではなかった。企業版ふるさと納税寄付金の約150万円は、復旧復興に充てるべきだった」と振り返った。

3事業の見直し求める声

 矢口市長が削減理由の一つに「市の厳しい財政状況」を挙げていることには、一部市民の間から①市八幡体育館(同市観音寺)の建て替え凍結②八幡、松山、平田3総合支所の機能縮小③市産業振興まちづくりセンター(サンロク)の一部事業の酒田商工会議所への移管―を求める声が上がっている。
 ①〜③の現状を見ると―
 ①市八幡体育館の建て替え=酒田市は、市八幡体育館を市国体記念体育館(同市飯森山)とともに、市の主要体育館として整備する方針を示している。これに基づき市は、耐震改修工事が必要とされた市八幡体育館を23~26年度に建て替える。これに向け市は25年度一般会計当初予算に、八幡体育館改築事業費5億2996万8千円を計上した。
 ②八幡、松山、平田3総合支所の機能=3総合支所の職員数は、正職員と会計年度任用職員、再雇用職員などを合わせて、八幡総合支所29人、松山総合支所27人、平田総合支所28人となっている。
 05年の市町村合併から今年で20年目を迎え、老朽化の激しい建物も見られる。市は25年度一般会計当初予算に、八幡地域振興事業561万1千円、松山地域振興事業330万5千円、平田地域振興事業566万円を計上した。
 ③市産業振興まちづくりセンター(サンロク)の事業=サンロクは18年度に開設し、25年度で8年目を迎える。市内事業者からの相談支援や女性の所得向上などに向けたIT人材の育成、商店街の活動支援などを行っている。
 サンロクによるマッチング支援件数は23年度43件、相談支援で創業した件数は同25件。市は25年度一般会計当初予算に、1億1757万4千円を計上した―。
 あるベテランの市議会議員は「市八幡体育館の建て替えには、丸山至前市長の意向も働いていると言われるが、そこは矢口市長の判断で延期にするべき。サンロクは酒田商工会議所などと連携して運営し、両者で重なっている部分もある。事業の実態を把握し、商議所に移管できる事業は移管した方がいい」と指摘する。
 そして「市町村合併は、行政の効率化や合理化で経費削減を図るのが目的。合併から20年を迎えようとする中、3総合支所は職員数や予算、窓口業務を見直し、機能の縮小を検討する時期に来ている」と話した。

「本気度伝わらず」と批判

 前出の政党関係者は「市の財政状況が厳しいのであれば、公共工事を先送りか中止にすれば、(市長の給与削減総額の)356万円以上の経費をねん出することができる。大雨災害からの復旧復興が、市にとって最優先の課題。そもそも箱物を整備している場合ではなく、急ぐ必要もない。コンパクトシティーの考え方にも逆向する市八幡体育館の建て替えは、政策判断で凍結するべき」と指摘した。
 そして「3総合支所には職員数が多く、機能を縮小してもいいのではないのか。矢口市長が給与を10%削減しても、市財政は改善しない。市財政の健全化に向け、見直しが必要と思われる事業は多く、そこに切り込もうとしない姿勢からは、財政再建にかける市長の本気度が伝わってこない」と厳しく批判した。
 市民の間からはほかに―
▼市財政が厳しいのだから、事業を見直していくことは不可欠。本来は酒田市議会が監視・確認する役割を担っているが、残念ながら今の市議会は、その役割を果たしていない。市民は納得しておらず、議員定数の削減を求める声も聞かれる。
 今秋には市議会議員選挙が行われることから、市のために働いてくれる人を議会に送り出したい。
▼矢口市長が給与を10%削減したのを知った時は、とても違和感を覚えた。給与を減額してほしいと望んでいるわけではないからだ。給与は従来通りでいいので、市長には給与に見合っただけの仕事をしてほしい。周りの市民も大半がそう思っているように見える―といった声が聞かれた。

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