第27回参議院議員選挙(7月20日投開票)は、7月3日の公示が約2週間後に迫った。山形県選挙区には、再選を目指す無所属で現職の芳賀道也氏(67)=国民民主党推薦=、自民党新人で元県議会議員の大内理加氏(62)=公明党推薦=、共産党新人で党県国政対策委員長の三井寺修氏(45)、参政党新人で自営業の佐藤友昭氏(52)の4氏が立候補を予定し、改選1議席を争う見通しとなっている。各立候補予定者は後援会事務所開きや決起集会、街頭演説を行うなど、決戦に向けた準備を加速させている。選挙戦本番を前に、支持拡大への動きを活発化させている4陣営の現状を追った。(本紙取材班)
次期参院選では、消費税の税率引き下げ・廃止などを含めた物価高騰対策や、それに伴う家計支援策、医療・介護制度の財源問題、米国との関税交渉の行方、防衛力強化の可否、憲法改正の是非、石破茂政権に対する評価などが争点となる。
山形県選挙区は、与野党攻防の鍵を握る、全国に32選挙区ある1人区の一つ。米価格の高騰を受け、農林水産省は備蓄米の放出などに乗り出したが、米の生産・流通を巡る課題が顕在化したことから、減反政策を含めた政府の農業政策を、山形県内の米生産者を含めた有権者がどう判断するのかにも注目が集まる。
公示日が目前に迫る中、各陣営は激しい前哨戦を繰り広げており、戦いは事実上、国民民主、立憲民主の両党県連と連合山形の2党1団体から支援を受ける芳賀氏と、自民・公明の与党勢力が推す大内氏による一騎打ちとなる公算が濃厚となっている。政治情勢に詳しい酒田飽海地区のある会社経営者は「県内の各界各層を巻き込みながら、最終的にわずかな得票差で当落が決まる接戦が予想される」との見方を示す。
次期参院選では、芳賀氏は6年前の2019年7月の参院選よりも、大内氏は3年前の22年7月の参院選よりも、それぞれ得票数を減らす可能性のある不安要素を抱えている。
芳賀氏は19年7月の参院選で27万9709票を獲得し、自民党の大沼瑞穂氏にわずか1万6524票差で接戦を制した。
しかし次期参院選は、国民民主党県連と立憲民主党県連、連合山形の2党1団体の枠組みは維持したが、6年前の共産党を含めた野党共闘は崩れた。共産党の候補は3年前の22年7月の参院選で1万9767票を獲得しており、「共産党の約2万票を補うため、芳賀氏は保守の中でも左派層を取り込もうと働き掛けを強めている」(酒田飽海地区のある政党関係者)模様だ。
一方、大内氏は22年7月の参院選で24万2433票を獲得したものの、26万9494票を得票して3選を果たした舟山康江氏に、2万7061票差をつけられて敗れた。
次期衆院選では、22年7月に続いて参政党が公認候補を擁立する。前回参院選で同党の候補は1万1481票を獲得し、今回は前回参院選を大きく上回る3万票の得票を目指している。
前出の酒田飽海地区のある政党関係者は「参政党の支持者は保守の中でも右派層が多くを占め、自民党の支持者と重なる部分がある。参政党候補の得票数が伸びれば、大内氏の獲得票に影響が出てくることは避けられない」と解説する。
芳賀氏は、国民民主党と立憲民主党の両県連、連合山形の2党1団体の支援を受ける。国民民主党山形県連会長の舟山康江・同党参議院議員会長兼両院議員総会長が、選対本部長に就いて全面支援する一方、自民党の組織票と戦う草の根の結集を呼び掛けている。
昨年12月に出馬を表明し、支援を受ける県議や労組系の集会などにこまめに顔を出して、あいさつ回りを続けている。5月6日には、国民民主党山形県連の全県キャラバンに相乗りして、庄内4カ所でも街頭演説をした。5月17日には山形市落合で後援会事務所開きを行った。
国政報告会は庄内町で5月に、三川町で6月7日に開いた。酒田、鶴岡両市での大規模な集会は今のところ未定だが、6月24日に庄内町響ホールで、連合酒田飽海地協と鶴岡田川地協が合同の集会を開く。
庄内では選挙用の事務所は新たに置かず、酒田市上安町にある芳賀氏の3区事務所と連合地協の事務所を拠点に、連合の支援を受ける非自民の県議と市町議が支援に動く。
山形ビッグウイングで15日に開いた国政報告会には、元日本テレビアナウンサーの福留功男氏も応援に駆け付け、芳賀氏と対談した。
全県から集まった約千人の支援者に、舟山選対本部長が「年金制度についても、備蓄米放出など米の問題についても議論が足りない。ここ山形から、議論の無いままに進める乱暴な政治を止めたい。参議院でも与党を過半数割れに追い込み、新しい政治を作る。必勝に向けて心ひとつに大きな力を結集してほしい」と呼び掛けた。
舩山整連合山形会長も「芳賀氏はひたすら県内を走り回り、国に声を届けてきた。与党の過半数を割らせる攻めの選挙をして、山形から流れを変えていく」と鼓舞した。
公示日の7月3日は、山形グランドホテルで出陣式を行い、遊説をスタートする。選挙期間中、庄内には3日間遊説に入る予定となっている。
大内氏は5月11日に、山形市城南町の事務所で後援会事務所開きを行い、6月8日に新庄最上、同9日に酒田飽海、同10日に鶴岡田川と衆院山形3区内の3地区で、それぞれ後援会事務所開きを行って臨戦態勢を整えた。
党選挙対策委員長の木原誠二衆院議員を招き、24日午後6時半から山形ビッグウイングで、山形市決起大会を開催する予定。
山形3区内の3地区での決起大会は、鶴岡田川地区が26日午後6時半から、鶴岡市のグランドエル・サンで行う予定。新圧最上地区は17日現在調整中。酒田飽海地区は既に9日夕に終えている。今後は、自民党・公明党総決起集会を29日午前10時半から、酒田勤労者福祉センターで行うことにしている。
大内氏は酒田市のガーデンパレスみずほに支援者ら約200人を集めた、6月9日の酒田飽海地区決起大会で、米問題を含めた食料安全保障や物価高対策への対応、人口減少対策としての地方分散型の国づくりの実現などを訴えた上で「県議を務めた(私の)軸足は地方にある。山形県がどうすれば生き残っていけるのか、地方の暮らしをどう守っていけるのかなどで、より良い政策を作り、皆さんのお役に立ちたい」と力を込めた。
そして「庄内に足を運ぶと、大半の人たちから『庄内と内陸との格差』のことを言われる。格差は交通インフラの整備の遅れのことだと理解しており、経済成長の土台となる交通インフラの整備をしっかりと前に進めたい。3回目の挑戦になるが、持てる力を振り絞って頑張るので、皆さんの力を貸してほしい」と支援を呼び掛けた。
県全体をまとめる選挙対策本部は5月11日に開設した。選対本部長に遠藤利明党中央政治大学院長兼党県連会長(衆院山形1区)、同副本部長には鈴木憲和衆院議員(同山形2区)と加藤鮎子衆院議員(同山形3区)の2人が就いた。
山形3区を統括する党第3選挙区支部選対総括本部長に森田廣県議(酒田市・飽海郡区)が就き、同3区内では鶴岡田川地区選対本部長に田澤伸一県議(東田川郡区)、酒田飽海地区選対本部長に梶原宗明県議(酒田市・飽海郡区)、新庄最上地区選対本部長に伊藤重成県議(最上郡区)がそれぞれ就任した。
森田党第3選挙区支部総括本部長は「自民党に対する逆風は吹いてはいるが、4年前の県知事選と3年前の参院選を戦ったことは大きく、大内氏の知名度は3年前より確実に高まっている。支援体制も整い、県内の各選対組織も引き締まってきている。投開票日までに(自民党に対する)逆風が弱まるのか強まるのかが勝敗の行方を大きく左右しそうだ」と話す。
三井寺氏は3月に立候補を表明した。同党の公認候補として同党の県議、各市町村議らが支援する。
決起集会を兼ねた事務所開きを6月7日に、事務所を置く山形市の日本共産党山形県委員会事務所で催した。
庄内では、事務所開きを7日に酒田、鶴岡の両地区委員会事務所で行った。同党の岩渕友参議委員を招いた同党鶴岡田川地区女性後援会総会を、6月13日に鶴岡市勤労者会館で開催した。
立候補の表明後は、県内各地の医療、福祉、農業団体などにあいさつして回り、7日までにほぼ終えた。街宣車を使った街頭演説は、庄内では10カ所で計60回ほど行った。
鶴岡市議選立候補予定者の事務所開きを兼ねた、新婦人の会活動交流会を6月22日に同市内で予定し、街宣車を使った街頭演説も22日に同市内5カ所で催す。街宣車の演説は28日にも予定する。
公示日は山形市で第一声を発し、庄内には6日に酒田で、7日に鶴岡で演説を予定する。
選挙戦では消費税5%への減税、最低賃金1500円への引き上げ、物価値上げを上回る年金額の引き上げ、診療報酬引き上げ、農林漁業への支援拡充などを訴える。
佐藤氏は2月7日に山形市内で記者会見を開き、参政党の公認候補として立候補する意思を正式に表明した。後援会事務所開きは5月25日に終えており、臨戦態勢に入っている。
きたの裕子同党衆院議員を招き27日午後5時半から、JR山形駅東口前で街頭演説を行う予定。
同党は衆院山形1~3区に党山形第1~3支部をそれぞれ設け、支部ごとに党員・サポーターが毎週曜日を決めて朝と夕に各所でつじ立ちを重ねている。毎週末には街頭演説を行い、佐藤氏本人も毎週末の朝に街頭演説を行って、知名度不足の解消と幅広い層への浸透を図っている。
同党は前回参院選で比例票176万8323票を得票した。次期参院選では600万票の獲得を目標に、比例代表で5人、選挙区で1人の計6人の当選を目指している。
これを踏まえ山形県選挙区では、同党の公認候補が前回参院選で得票した1万1481票の約3倍に当たる、3万票の獲得を目指すとしている。
元木光一郎党山形県支部連合会長は「既存政党による政治に諦めを持っている人たちに選択肢を提供し、そうした人たちの受け皿になることを目指す。次期参院選で全選挙区に候補者を擁立するのは、参政党と自民党だけ。国民の声を丁寧に聞きながら、保守政治が本来やるべき仕事に取り組んでいきたい」と話している。