第27回参議院議員選挙は20日に投開票され、山形県選挙区(改選数1)では、無所属現職の芳賀道也氏(67)=国民民主党推薦=が、自民党新人の大内理加氏(62)=公明党推薦=との事実上の一騎打ちに圧勝し、再選を果たした。参院選の県選挙区で野党系候補が勝利するのは2016年7月から4回連続となる。参政党新人の佐藤友昭氏(52)は得票数を伸ばしたが浸透し切れず、共産党新人の三井寺修氏(45)は同党以外への広がりを欠き、政治団体・NHK党新人の大貫学氏(67)は埋没した。投票率は62・55%で前回参院選(2022年7月)の61・87%を0・68ポイント上回った。(本紙取材班)
参院選では、消費税の税率引き下げ・廃止などを含めた物価高騰対策やそれに伴う家計支援策、停滞する日米関税交渉の是非、防衛力強化の可否、自民党の裏金問題などで高まった政治不信を背景に、政権選択選挙の色合いが強まったことから、石破茂政権に対する評価などが争点となった。
山形県は国内有数の米生産県。米価格の高騰を受け、農林水産省は備蓄米を放出したが、米の生産・流通を巡る課題が顕在化し、減反政策を含めた政府の農業政策を、山形県内の米生産者や消費者がどう判断するのかにも注目が集まった。
芳賀氏は24万8864票(得票率46・81%)を獲得し、大内氏の19万4478票(同36・58%)に5万4386票の差をつけた。得票数は芳賀氏が県内35市町村のうち29市町村で大内氏を上回った。
しかし芳賀氏の得票数は、初陣を飾った2019年7月の参院選の27万9709票を3万845票下回り、前回参院選に国民民主党公認で立候補し3選を果たした舟山康江氏が獲得した26万9494票にも、2万630票届かなかった。
衆院選山形3区内の市町村別得票数=下表=を見ると、芳賀氏は13市町村の全てで2019年7月の参院選から得票数を減らした。ただ自民党候補を上回り最多得票数を獲得したのは、19年7月は酒田、新庄、庄内、三川、遊佐の2市3町だったが、今回は鶴岡、酒田、新庄、庄内、三川、遊佐、舟形、鮭川の3市4町1村に増えている。
芳賀氏は、支援者であふれた選挙事務所に投票終了の午後8時前に到着。投票終了と同時に当選確実の一報が出ると大きな歓声と拍手が沸き起こった。
芳賀氏は「こんなに県民の反響が大きい選挙は無かった。全県各地で草の根で支援していただいた」と感謝を述べ、「少数与党に追い込めば国民の悲願のガソリンを下げる、手取りを増やす、消費税を下げる。このことが実現していく。県民の思いを叶えるために全力を尽くす」と決意を語った。
さらに「野党が協力してこの後やっていけるかが大事。参議院で野党がしっかり協力することも実現する。国民の声が通る政策には協力するが、あまりにもおかしな与党の延命に手を貸すことがあってはならない。この二つのバランスを取りながら、県民の願い、国民の願いが叶うように努力していく」と話した。
2期目には「困っている人を助ける本来の政治の原点に帰っていく。物価高騰の中で必要な公的な収入を上げていく。選挙戦で回っていて農家の怒りの強さを感じた。かつての戸別所得補償方式をさらに進化した形で進め、持続可能な農業をしっかり作っていく。今までの大都市や大企業、大金持ちばかりがいい政治を逆転させて、豊かな農村を作り直し、東京一極集中にも歯止めをかけ、人の流れを逆転し、再び豊かな農村が人々を受け入れる社会を作っていきたい」と呼び掛けた。
芳賀氏は国民民主党県連と立憲民主党県連、連合山形の2党1団体の支援を受け、特に国民民主党は党役員が何度も応援に入った。皆川治鶴岡市長や近藤洋介米沢市長などの首長、労働組合系の県議や市町村議が支援した。
17日間の選挙中、5、11、15日に庄内入りし、街頭演説や個人演説会で、6年間の活動の成果をはじめ、ガソリン暫定税率の廃止や消費税減税、手取りを増やす物価対策、米不足への対応を巡る農政批判など、参議院でも少数与党に追い込む政権交代を訴えた。
選対本部長の舟山康江参院議員は勝因を「訴えたことが国民の声と重なったということ。物価高騰を何とかする対応の違い。今いろんな分野で手取りが少ない。その対策として訴えたことに共感いただいた」と分析。今後の国会運営については「今の自民党は結党70年、戦後80年となり制度疲労を起こしている。そこにメスを入れなければならないということを念頭に置いて、古い政治、仕組みを変えていく。再審法、空襲被害者救済法、選択的夫婦別姓も、与党の中でいろいろな意見があっても進まない。古い体制を変えていかないと今の新しい政治の流れに対応できない」と話した。
大内氏の支援者ら約100人は、山形市城南町の選挙事務所で開票状況を見守った。午後8時過ぎにテレビで芳賀氏の当選確実が報じられると、会場は重苦しい雰囲気に包まれた。
直後に姿を現した大内氏は「ご期待に応えることができず、本当に申し訳ありませんでした。県議会議員を辞めてからの5年間で、大きな戦いに2度臨んだが、どんなに負けても変わらずに支えて下さった皆様に心から感謝を申し上げます」と述べ、頭を下げた。
その上で「当選された芳賀さんには、山形県のため、また地方の暮らしのために力を尽くしていただきたいと思っている」とも語った。
選対本部長で党県連会長の遠藤利明衆院議員は報道陣の取材に「これだけ頑張った大内氏を当選させられなかった責任を感じている。選挙戦当初は十分追い付けるとスタートしたが、先週半ばくらいから雰囲気が変わり、反応が急に鈍くなった。今までに想定できないような選挙になったが、それを超えるだけの力が必要だった」と振り返った。
そして「減税と給付を争点にした戦略上の問題もあったかと思う。給付と言って引っ込め、後半に減税はだめだから給付というのは、納得してもらえなかったのではないか。政策のぶれと言い訳の選挙になってしまったことが響いた。(敗戦の)中身を検証し、3年後にどういう形で戦うのかを、考えていかなければならない」と総括した。
大内氏は2021年1月の山形県知事選挙に党本部推薦で、2022年7月の前回参院選には党公認で立候補し、今回は「三度目の正直」を掲げて臨んだ。
同党の遠藤、鈴木憲和、加藤鮎子の3衆院議員をはじめ、党所属の県議会議員、市町村議員らを中心に組織戦を展開。山形選挙区を党の最重点区の一つに位置付け、小泉進次郎農林水産大臣や森山裕党幹事長、石破茂首相らが相次ぎ応援に駆けつけ、小池百合子東京都知事も県内入りした。
選挙戦では、地方分散型の国づくり、物価上昇を上回る賃上げができる成長戦略と事業者支援などを訴えたが、自民党への逆風に勢いをそがれた。
佐藤氏は6万6262票を獲得し、参政党の公認候補が前回参院選で得票した1万1481票を5万4781票上回った。選挙戦の前は3万票の獲得を目標に掲げていたが、得票数はその2・2倍に上った。
衆院山形1~3区に党山形第1~3区支部を設け、党員・サポーターの支援を受けながら、各地で遊説を重ね支持者の掘り起こしを進めた。選挙戦序盤には神谷宗幣代表も県内入りし、支持を呼び掛けた。日本人ファーストの主張を前面に打ち出し、税と社会保険料を合わせた国民負担率の軽減などを訴えた。
山形3区内の市町村別得票数では、鶴岡市で7471票、酒田市で6176票を獲得した。
三井寺氏は4日に小池晃書記局長、岩渕友参議院議員らを呼び、山形駅東口で街頭演説会を開いた。高橋千鶴子前衆議院議員、県議、各市町村議らと連携して県内全市町村を遊説した。
憲法9条を生かした平和外交と軍拡の中止、物価高対策の消費税減税と将来的な廃止、大企業への減税中止と中小企業の賃上げ支援など、党中央の政策を主に訴えて、自公政権と参政党への批判票を取り込もうとしたが、支持が広がらなかった。