任期満了に伴う7月20日投開票の庄内町長選で再選した富樫透町長(62)は12日、本紙の単独インタビューに応じ、吉村美栄子山形県知事が推進に前向きな見解を示している山形新幹線の庄内延伸に対する考え方や、人口減少への対応策、基幹産業の農業振興や企業誘致に向けた取り組みなどについて語った。山形新幹線の庄内延伸に対しては「陸羽西線の存続に向け、高速化の在り方や利便性の向上などを議論する突破口になる」との見方を強調。農業振興に向けた取り組みでは、米を中心に農業でもうかる仕掛けづくりを町としても支援していく方針を明らかにした。(編集主幹・菅原宏之)
―吉村美栄子県知事が、山形新幹線の庄内延伸に前向きな見解を示し「地域でも議論を盛んにしてほしい」と述べている。町長としてどう考えているか。
吉村県知事の発言は、陸羽西線の高速化の在り方や利便性の向上などについて、今後どうしていくのかを議論する一つの突破口になる。新圧市長も戸沢村長も酒田市長も私も、沿線自治体の首長の間では「陸羽西線を存続させなければならない」という認識で一致している。
先般も酒田、鶴岡、庄内、遊佐、三川の庄内2市3町の首長で、庄内延伸に関して協議を行った。そして吉村県知事の発言の真意を再確認した上で、庄内2市3町の自治体担当者レベルで過去の経緯などを含め、勉強会をしていくことにした。
今回の吉村県知事の発言は、庄内地域がまとまって庄内延伸を真剣に議論するきっかけになる。
―庄内延伸による経済効果を庄内地域全体に波及させる手段の一つに、余目駅周辺に大きな無料駐車場を整備し、酒田、鶴岡の両市民が利用できるようにすればいい、と指摘する声もある。
酒田市や遊佐町だけでなく、今では新庄市の人たちも余目駅周辺の無料駐車場を利用し、余目駅から特急いなほに乗って東京方面に行くケースが見られるようになっている。そうした現状から、町には「駐車場が足りないので増やせないのか」との要望も寄せられており、対応に苦慮している。余目駅の役割をしっかり認識し、各方面の方々に相談しながら解決していきたい。
―宮城県石巻市と酒田市を結ぶ高規格道路「みちのくウエストライン」の早期整備に向けた要望活動を強化しようと、両県と関係4団体は7月28日、みちのくウエストライン「石巻新庄道路・新庄酒田道路」宮城・山形・4団体連合整備促進期成同盟会を設立し、8月8日には財務省と国土交通省に要望活動を行った。同ラインの整備をどう進めていくつもりか。
設立総会は、宮城、山形両県境の国重要文化財・封人の家(最上町)であり、両県知事からはようやく整備に本腰を入れていただいたと受け止めている。
ウエストラインの整備に向けては、青年会議所時代から関わり、今年で27年目を迎える。どんどん進めていかなければならない事業であり、足並みをそろえ早期整備に向けて頑張りたい。
―庄内空港は羽田便のみ運航しているが、羽田便以外の国内線の運航拡充や格安航空会社(LCC)の運航再開などを望む声は多い。庄内空港の活性化策をどう考えているか。
庄内空港の滑走路を現行の2000メートルから2500メートルに延長し、庄内空港ビルの東側に税関などが入る3階建ての国際線ターミナル施設を新設しなければならないと思っている。それが活性化に向けた大前提。
その上で可能性があれば、国内線の路線を増やすべきと考える。その可能性を高める意味でも、庄内地域を訪れたいと思わせるような仕掛け作りが必要だと思う。
―庄内町の人口は6月末で1万8903人。人口減少への対応は喫緊の課題となっている。どんな施策に注力していく考えか。
人口を増やすのは難しいので、減らさない工夫をしていく。山形県は可処分所得では全国3位といわれるが、一番の問題は若い女性が流出してしまうこと。給料や待遇も含め、女性の皆さんに選んでもらえるような職場づくりを、企業の皆さんとともに進めていく必要がある。
町内の出生数は2024年度で96人しかない。子育て支援策は比較的充実していると思うが、婚活など一緒にできることは広域的に取り組んだ方がいい。
人手不足への対応では、有能な外国人材を受け入れていく必要があると思っている。3年前に118人だった外国籍の在住者は178人に増え、うち64人はベトナム人が占めている。
七つのまちづくりセンターがあり、そこを拠点に地域活動をお願いしている。今後は地域で頑張れる部分を明確にする必要がある。自分たちの地域は自分たちで守っていく、という思いを持ってもらえる体制をつくることが、町として生き残っていく重要な鍵となる。
―基幹産業の農業は、生産者の高齢化や担い手不足が課題となっている。農業振興に向け、どのような施策を展開していく考えか。
庄内町イコール米ということで、さまざまな仕掛けを進めている。平場の農家は農協とともに平場で頑張っていただく。課題は中山間地。立谷沢地区には約496ヘクタールの田んぼがあるが、農家数は120戸ほど。10年後には10分の1に減るだろうといわれている。
国は2050年までに、有機農業の取り組み面積の割合を全耕地の4分の1に拡大する方針を打ち出している。これを踏まえ、山形大学の先生方を含めた農村RMO(複数の集落が連携して地域コミュニティの維持・活性化に取り組む組織)の中で、地域の課題解決への取り組みを検討している。
例えば、庄内町には豚が2万2千頭ほどいる。お米もおいしいし、豚肉もうまいということで、町でも補助をしながら、地元の食材を提供する飲食店が、地域内で採算が取れるような仕掛けをつくっていく。
お米や餅などを対象にバイヤーツアーも実施し、商談がまとまりつつある例も見られる。これは1期目の4年間に、お米を中心に据えてきた成果の一つ。しょうゆの実や漬物なども実を結びつつあり、農業でもうかる仕掛けづくりを、町としても支援していく。
―1期目から進めてきた企業誘致の成果を生かして、どのような施策を展開していくのか。
大きな製造業を誘致することは簡単ではないが、起業して億単位で稼いでいる人もいる。誘致活動では、東京などに赴くたびに情報共有させていただきながら、企業訪問もしている。「食」の分野は庄内町らしさにもつながると考えおり、慎重に見極めながら誘致に取り組んでいきたい。
医療法人・徳洲会庄内余目病院が、2027年9月に現在地の南側に移転する。32年度には、町文化創造館響ホールの北側に統合小学校を整備する方向で検討している。今後、都市計画区域における、これら2施設周辺の土地利用の在り方について検討していく必要があると思っている。
―任期の4年間で実現したいと考えていることは。
1期目は種をまく感じが強いので、2期目が本番だと思っている。その意味では、26年度から始まる第3次町総合計画に沿った形で進めていきたい。
―どのような町政運営を心掛けていくつもりか。
より多くの皆さんの声を形にできるようにしていきたいと思っている。