郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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全文掲載

本紙単独インタビュー
山形新幹線延伸には慎重姿勢
佐藤聡鶴岡新市長が抱負語る

 鶴岡市長に10月23日に就任してから約1カ月が経過した佐藤聡市長(57)が11月20日、本紙の単独インタビューに応じた。佐藤市長は「新たな活力を生む取り組みに全力を尽くす」と述べ、行政の無駄の見直しや0~2歳児の保育料無償化、中心市街地の活性化などに意欲を見せた。山形新幹線の庄内延伸には「効果はある」とする一方で、議論が必要として慎重な姿勢を見せた。庄内空港の国際線ターミナル整備はぜひ進めるべきとし、格安航空会社に再就航を働きかける考えも示した。(編集部次長・土田哲史)

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インタビューに答える
佐藤 聡 市長(57)

新たな活力生む施策に全力

―市長選挙では市民からさまざまな声を聞いたと思うが、鶴岡市の現状をどのように認識しているか。
 素晴らしい歴史と文化、豊かな地域資源を持っている。一方で少子化は深刻な問題で人口減少も進んでいる。選挙戦では鶴岡を変えてほしい、もっと元気なまちにしてほしい、という市民の声をたくさん聞いた。
 鶴岡市は慶應義塾大学先端生命科学研究所やユネスコ食文化創造都市などに取り組んできたが、これまで以上に若い人が来て、住んでもらい、女性にも選ばれるまちにしていかなければならないと強く感じた。慶應先端研やユネスコに続く新たな活力を鶴岡に作っていく必要がある。その取り組みを今後の柱としていきたい。

―市長に就任して最優先で取り組むことは何か。
 まずは鶴岡に新しい価値を創造して活力を生む取り組みに全力を尽くす。若者と女性に選ばれる鶴岡にしていく。
 市長に就任してから中央省庁や友好都市、慶應義塾大学の塾長、企業の経営者など多くの人と面会してきたが、皆さんから鶴岡のがんばりを評価してもらった。鶴岡の可能性と伸びしろは「まだまだ十分にある」と言われた。そういった方々の力を借りれば、さまざまな取り組みができると思う。
 行財政改革も待ったなしだ。今まさに新年度予算の話をしているところだが、やはり財政は厳しい。合併特例期間のハード整備や子育て支援策の支出などで歳出が膨らんだ。一方で歳入も減ってきており、歳入と歳出のバランスが崩れて、歳出が多くなってしまっている。歳入歳出のバランスはしっかりと見直していく必要がある。
 ハラスメント(権力や立場を利用した嫌がらせ)の撲滅にも取り組む。市職員が鶴岡のために伸び伸びと仕事ができる環境を整えるため、私が率先して「ハラスメントは許さない。撲滅する」というメッセージを発信した。市役所の中に浸透させ、対策をすることで、市職員が鶴岡のために能力を十分に発揮できるようにしていきたい。
 これら①市の新たな活力作り②行財政改革③ハラスメント撲滅―の三つの柱を優先して取り組んでいく。

歳出削減は新年度から

―市の行政コストを2024年度比10%削減する、と選挙戦の公約に掲げた。24年度普通会計決算の歳出総額782億円の10%は約78億円。どのように削減するのか。
 任意に削減しようがない、扶助費・公債費のいわゆる義務的経費は対象外とし、市の裁量で削減できる市役所内部の無駄や公共施設、イベントなど仕事の進め方の中で見直しができるものがないかを洗い出したい。
 行財政改革は今までも進めてきたと思うが、無駄なものや不要不急なもの、同じようなことをやっていて効率化できるようなものがあると思う。これらの無駄を減らせば、付随して余計な仕事も減らせると思う。これらの細かい積み重ねで歳出を削減していきたい。
 ただし今はインフレが続いており、人件費や資材、材料費が上がっている。物価が毎年2~3%上がっている中で、行政コストを10%削減できるかどうかはやってみないと分からない部分はある。金額よりも無駄なことや仕事の量を減らすことを重視して取り組んでいきたい。

ふるさと納税、県内2番へ

―歳出削減は新年度予算に反映させるのか。
 基本的にはそうだ。各部署に無駄を減らして歳出を減らすことを考えてほしいと伝える。歳出を減らすだけでなく、歳入を増やすことも必要。市のふるさと納税額は県内5番目。市の人口は県内2番目なので、ふるさと納税額も順位を上げられるように、金額を増やしていかなければならない。これは十分に達成できると思う。
 市のふるさと納税の中身を見ると、最も多い返礼品は米で3分の2を占めるが、米価の高騰で米の人気が続くかどうかを見極める必要がある。体験型の返礼品など、米以外にもさまざまな返礼品を工夫して増やしていきたい。

結婚に結びつく支援を

―国立社会保障・人口問題研究所が、鶴岡市の人口は2050年に7万6968人になると推計している。人口減少問題にはどのように対処していくのか。
 亡くなる人以上に子どもが生まれないと、人口減少は進んでいく。今の高校生が子どものころは千人ぐらい生まれていたのが、昨年は504人とほぼ半減している。まずは出生数を増やしていくことが大事。
 0~2歳児保育料の無償化や、屋内外の子どもの遊び場整備などで、子育てしやすい環境を整えていく。子育て世代に選ばれる鶴岡市にしていきたい。子育ての負担感を軽減して、2人目3人目を産んでもらえるようにしていく。結婚したくてもできないという声もある。結婚に結びつくような支援もしていきたい。
 当面の間、出生数を死亡数が上回るので、人口は急激に減っていく。そのときに市の機能をどのように維持していくのかも考えなければならない。長期的な視点を持って市政を運営していきたい。

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意欲を見せる佐藤市長
(11月20日)

既存施設に屋内遊び場検討

―前市長の下で進められた給食センターと図書館の建て替え、新産業団地の造成はどうするのか。公約の子どもの遊び場はどのように整備するのか。
 子どもの遊び場は、第2学区コミセンの建て替えに伴い、中央児童館を再整備してプレーパークを造る計画が進んでいる。同時に既存の建物を活用して、屋内の遊び場を造ることを検討している。
 鶴岡市の中には遊び場となる地域資源がたくさんあると思う。そういったところを「ここは子どもの遊び場だよ」と分かるようにリスト化を進めたい。
 同じような遊び場を増やすのではなく、既存の施設を活用しながら、個性ある遊び場を市内に設置していきたい。地元のいろいろな遊び場に行きたいと思えるように、それぞれ違うコンセプトの遊び場を作れば、人の動きも活発になると思う。
 給食センターと図書館は、教育委員会で検討を進めている。どちらも大きな投資案件となるので、建設費用と建設後の維持管理費用も含めて適切な施設となるようにしていきたい。
 新産業団地は、企業からそこに立地したいという意向もあると聞いている。そこはこれまで通りに進めていく。進出企業はなるべく早い分譲開始を希望しているので、迅速に進めていきたい。
 新産業団地と鶴岡西工業団地は鶴岡サイエンスパークに近い。サイエンスパークとの連携も考えられる。サイエンスパークではさまざまなベンチャー企業が立ち上がっているが、量産のための工場が必要となった場合に使えるシェア型の工場など、企業側のニーズに応じた整備ができるようにしていきたい。

住民の意向聞き施設適正化

―廃校など使われなくなった公共施設の活用や公共施設の適正化を、どのように考えているのか。
 まずは地元の意向を伺いたい。地元住民から活用したいという意向があるのが最も良い。地元で使わなければ民間での活用を考える。それでも活用策が無ければ、解体や跡地の利用を検討することになる。
 市内には多くの公共施設がある。ファシリティマネジメント(土地、建物などを経営戦略的に活用すること)は大事。どんどん建てるだけでなく、余ったものをどう活用するかの視点も大事。解体にも多額の費用がかかる。単に古くなったから建て替えるのではなく、人口減少の中で二つあったものを一つに統合したり、二つの地域の真ん中に建てたりするなどの考え方が重要だと思う。

空き家で中心街に移住誘導

―中心市街地の空洞化や再開発・活性化に、どのように取り組んでいくのか。
 第3期鶴岡市中心市街地活性化基本計画を、市と鶴岡商工会議所、民間が一緒になって進めている。まずはこれを着実に実行する。
 空き家の放置などが問題となっているが、空き家を使いたい人が使えるようにする取り組みができないかと思う。例えば移住希望者なら、せっかく移住するのなら中心市街地に住んでいただきたいし、子育て世代にも、病院や学校が近い中心市街地に住んでもらいたい。住める中心市街地にできないかを考えていく。
 今までの中心市街地には、商店街に住みながら商売するという生活があった。それが今は商店街に店があっても住む所は別にあり、中心市街地に住む人が減った。それも一つの原因だと思う。
 たとえ中心市街地に住みたいと思っても、住む家が無い、家があっても古いままで住めない、という問題もある。そこを何とかして動かしていけないか。空き家を使いたい人が使えるようにできないか。最近は空き店舗を改修して使う人が出てきている。そういった動きを住宅でもできないかと思っている。そのためには民間の力がいる。民間でできるように、市でルール面のサポートや補助金による誘導ができればと思う。
 歩いて楽しめるまちにすることも大事。観光客や外から来た人たちからは、鶴岡は歴史的な建物があり、中心部を内川が流れ美しいまちだと評価されている。中心市街地を歩いて楽しめるように、魅力的な店を配置したり、ポケットパークなどの休憩できる場所を造ったりすることも重要。
 鶴岡銀座商店街で先日行った社会実験のパークレット(車道の一部を人の交流用にした空間)のように、人が溜まり集まれるような場所を作って、まちのにぎわいにつなげたい。民間事業者と連携しながら、中心市街地の活性化に取り組んでいきたい。

新幹線延伸は議論が大事

―羽越本線と陸羽西線の赤字が表面化する中、吉村美栄子県知事は山形新幹線の庄内延伸を進めるためには地元でもっと声を上げてほしいと話した。酒田市では経済界を中心に庄内延伸の機運が高まっている。鶴岡市では新幹線の庄内延伸が、特急いなほの減便につながらないかなどと懸念する声もある。鉄道の高速化にどのように対応していくのか。
 新幹線で庄内と内陸が結ばれれば、両地域の行き来がしやすくなり、訪日外国人旅行客も庄内に来やすくなる。庄内の天気が悪いときの代替鉄道路線となるなど、山形新幹線が庄内に延伸すれば、さまざまな効果はあると思っている。
 一方で鶴岡は、山形新幹線の庄内延伸よりも羽越本線の高速化が優位であると運動してきた。これにより新潟駅で、特急いなほと上越新幹線の対面乗り換えが実現した。羽越本線高速化、複線化、安定輸送、羽越新幹線の実現のための運動は、今後も続けていく。
 山形新幹線の庄内延伸では、今年7月29日の庄内市町村会総会で、鉄道ネットワークの機能強化を事務レベルで検討を進めていくことになった。知事の意向や県の考え、JR東日本の考えを聞いた上で議論していくことが大事だと思う。
 山形新幹線の庄内延伸、羽越本線高速化、羽越新幹線と、あれもこれも運動することが果たしてどうなのかなという気持ちもある。山形新幹線の庄内延伸を否定するわけではないし、実現できれば効果はあると思っているが、庄内延伸の運動を本格化させる前に、さまざま確認しなければならないことがある。

国際ターミナルぜひ推進

―県は庄内空港に国際線ターミナルを新設する計画案をまとめているが、市民からは羽田線の通年5便化や格安航空便の復活、羽田線以外の国内路線就航を望む声は強い。庄内空港の利用促進にどう取り組むのか。
 県議時代から訴えてきたことだが、台湾の国際チャーター便が希望する庄内空港の到着時間帯は、折り返し台湾行き便の搭乗も考えて、午後1~3時になる。
 5便化するとこの時間帯に羽田便とチャーター便の発着が重なり、国内線と国際線の分離ができなくなる。4便だったころは台湾便が割り込むことができたため、多くのチャーター便を運航できたが、5便化により多くのチャーター便を運航することが難しくなった。
 11月6日の台湾チャーター便は、午後2時10分の羽田便が飛んだ後に空港内のレイアウトを変えて、出発と到着をこなす綱渡りの運用だった。相当混雑したと聞いている。
 庄内空港に国際チャーター便を増やすには、国際線と国内線の導線を分離する改修が必要になる、と県議時代から訴えてきた。山形空港はその改修ができている。荷物ターンテーブルが2カ所で動く。
 庄内空港は場所が狭いため、隣の貨物ビルを改築することになったようだ。国際線ターミナルを造らないと、5便化になっている限りは国際チャーター便の就航が難しい。大阪や名古屋などの新路線が入ってくれば、ますます国際チャーター便は飛べなくなる。国際ターミナルの整備はぜひ進めていただきたい。
 羽田線5便化は羽田の発着枠が問題。同線は搭乗率が平均70%超とかなり混雑している。次の政策コンテストで庄内空港の通年5便化が確保できるように県に働き掛けていく。関西方面などの新路線の就航も、県や航空会社に働き掛けていきたい。
 格安航空会社のジェットスターは、昨年5期ぶりに黒字となった。コロナ禍で相当なダメージを受けた。フジドリームエアラインズ(FDA)も航空事業がまだ厳しいと聞いている。そういった航空会社に、庄内―関西路線を飛んでくださいとお願いはできるが、彼らにとっては路線が黒字になるかが重要。こちら側からこれだけの需要があります、支援ができますと示していくことが大事になる。
 ジェットスターは昨年黒字になったので、再就航を働き掛けてみようと思っている。FDAも黒字になると分かれば、就航するのではないか。以前のように全日空で就航できれば良いのだが、その可能性も含めて県と一緒に各航空会社に働き掛けていきたい。

再エネは地元にメリットを

―遊佐町沖と酒田市沖では洋上風力発電の計画がある。鶴岡市内では三瀬矢引風力発電の計画が進んでいるが、地元住民や環境保護団体からは計画への疑念や中止を求める声が出ている。市内の再生可能エネルギー計画への対応は。
 三瀬矢引風力には地元自治会などから景観や騒音などに不安の声があることは、市として受け止めている。昨年10月に提出した環境影響評価準備書の市の意見書の中に、そのことは含まれている。これを踏まえて事業者は環境保全措置を講じていくと認識している。
 脱炭素社会の実現や地球温暖化防止のために、再生可能エネルギーは大事だと思っている。風力発電の導入を拒んでばかりでは、再生可能エネルギーは普及しない。地元住民や環境へ配慮しながら計画を進めていくべき。ただし、場所を提供するだけでは地元にメリットが無い。林道の整備や地元住民への支援など、地元にもメリットがある形で施設整備する必要がある。

広い世代と対話する機会を

―市民が直接参加する会議「みらい創造ミーティング」の常設を公約に掲げたが、会議で出た声を含め、市の各種政策・事業の目的や内容を市民にどのように説明しようと考えているのか。
 市長と語る会など、市民との対話の機会はあるが、地域ごとに開催するのが基本になっている。そうではなく若い人や女性、高齢者などさまざまな世代に入ってもらい、鶴岡の未来を語っていただいて、私達と直接対話することをしていきたい。そこで出た意見は市民に示し、市政に取り入れていきたい。若者や女性が市政に参画できる場を作ることが、まちづくりに関心を持つきっかけになる。自分たちでまちづくりができているという実感になる。

―ほかにはどんなことに取り組みたいか。
 庄内地方は、酒田市など他の市町と連携が欠かせない。各首長とは緊密に連絡を取り合っている。特に観光面などの施策では「庄内は一つ」だと思う。課題は庄内全体で考えていく必要がある。酒田市、庄内町、県との水道事業の統合も、行政コストを下げるためのもの。行政サービスの統合は、今後もさまざまな分野で進んでいくと思う。市町村や県の枠にとらわれず、事業の効率化を進めていくことが必須になってくる。

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