郷土の未来をつくるコミュニティペーパー(山形県庄内地方の地域新聞)
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全文掲載

三瀬矢引風力発電
環境影響評価書の結論は疑問
地元住民と野鳥の会が批判

 エネオスリニューアブル・エナジー(株)(東京都港区、小野田泰代表取締役、以下ERE)は、鶴岡市矢引などで計画する「三瀬矢引風力発電事業(仮称)」の環境影響評価の評価書を、3月5日まで同市役所などで公開している。評価書は「環境影響を回避又は低減しており、計画は適正である」などと記し、3月に着工し、2028年末に稼働する予定。しかし、矢引自治会(長谷川伸恒会長)など一部の地元住民は「地元の理解は得られていない」として反対を表明し、日本野鳥の会県支部(細谷千鶴子支部長)も「影響は少なくない」と懸念を示している(編集部次長・土田哲史)

高さ172メートルの風車5基計画

 評価書によると、同事業は高さ172メートル、出力4200キロワットの発電用大型風車5基を、中山、中沢、由良、矢引、三瀬、大荒の6地区に囲まれた山中の、標高約200メートルの尾根筋に建てる。
 住宅地との最短距離は、中山が約700メートル、中沢が約800メートル、由良が約1000メートル、矢引が約1100メートル、三瀬が約1700メートル。教育施設との距離は、由良保育園が約1200メートル、豊浦小学校が約1700メートル、上郷小学校が約2300メートルとなっている。
 対象事業実施区域の総面積は約471ヘクタール。今年3月に着工し、2028年12月から運転する予定。

表
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 環境影響評価の結果では①大気②水③その他の環境④動物⑤植物⑥生態系⑦景観⑧人と自然の触れ合いの場⑨廃棄物等⑩専門家等へのヒアリング―を記し、環境保全の措置や事後調査の予定などをまとめている。
 このうち①の騒音では、風車の稼働により矢引地区で最大5デシベル増えるが、全6地区とも全ての季節と時間帯で指針値を下回ると予測した。
 超低周波音は、矢引地区と中沢地区で最大14デシベル増えるが、全6地区とも超低周波音を感じる最小音圧レベルを大きく下回る、とした。
 ④では、対象区域と周辺にクマタカ(絶滅危惧ⅠB類)とイヌワシ(同)などの希少猛きん類11種の生息が確認され、渡り鳥ではハクチョウ類などが確認された。
 このため、2020年11月の環境影響評価方法書の段階で、予定していた最大7基のうち、クマタカの営巣中心域にある風車2基を中止し、3基を営巣中心域外に配置することにした。さらに鳥類の衝突事故を避けるため、風車の羽根と塔を塗装し、夜間のライトアップを行わないとした。
 ⑦では、中山地区で「圧迫感を受ける可能性がある」としたが、三瀬、由良、矢引地区は「圧迫感はあまり受けない」と予測した。
 これらの結果から、環境影響評価の総合的な評価として「実行可能な範囲内で環境影響を回避又は低減しており、国又は地方公共団体が定めている環境基準及び環境目標等の維持・達成に支障を及ぼすものではなく、本事業の計画は適正であると評価する」と記した。

住民の反対・不安を無視

 これに対し矢引自治会の長谷川会長は「評価書の内容には納得できない。計画は認められない」と話す。
 矢引自治会は、2025年7月27日の臨時総会で、全29世帯に同事業への賛否を問い、賛成4、反対19の反対多数で計画の中止を求める決議をした。
 長谷川会長は「評価書では矢引自治会が反対していることへの回答が無く、無視される形になった。矢引に長く住み続けたい若い人ほど反対している。EREは騒音被害が発生したら窓を二重サッシに施工すると言っているが、それは夏でも窓を開けられなくなることを意味する。EREが宮城県加美町で運転しているJRE宮城加美町ウインドファームでは、三瀬矢引と同規格の出力4200キロワットの風車を運転しているが、騒音の被害が出て窓を二重サッシにしたと聞いている。矢引もそうなるのか。騒音と超低周波音で夜も寝られなくなるのではないか、と心配している」と話す。
 さらに「圧迫感はあまり受けないとしているが、そんなことは無い。わずか200メートルほどの低山に172メートルの風車が建てば、相当な圧迫感を受ける。工事では山を切り土して木を切る。これでは山の保水力が弱まってしまう。高速道路を造った時も沢が埋まり、何度も土砂を排出した。環境を守るための風車が自然破壊になるのは間違いない」と指摘した。
 上郷学区の一部住民で作る「上郷地区風力発電を考える会」(佐藤安太郎代表)も、矢引自治会と同様に計画の中止を求めている。
 佐藤代表は「クマタカの営巣域を避けるために風車の位置を変更したが、そのために風車は住宅地側に寄せられた。我々がこれまでに示してきた騒音や景観への不安が、評価書では何一つ解消されていない。
 風車が7基から5基に減っても、風車は大きいまま。風車を小さくすると利益が下がるため、事業者は小さくしたくないのだろう。事業者が住民側に配慮する姿勢が見えない。この評価書で地元の理解を得られたとは思えない。こんな計画は無理だ」と批判した。

クマタカ繁殖放棄の懸念

 日本野鳥の会県支部の細谷支部長は「これだけ鳥類の観察例が上がっているのに、影響は少ないと評価していることに驚く」と指摘する。
 3月の着工予定には「3月はクマタカのつがいが営巣を始める時期。人間や重機がうろうろしている横で営巣するクマタカがいるはずがない。そのペアは繁殖放棄となるしかない。つまり、工事中にいくら観察しても、『当該ペアには繁殖行動は見られなかった』という結果しか得られない。これが次の事業で『クマタカの繁殖に影響はない』と言い切る根拠になってしまう」と説明した。
 渡り鳥には「コハクチョウの飛翔軌跡が、工事箇所の周辺を真っ赤に染めているのに、『回避する余地がある』ので影響は少ないと言っている。たしかに鳥は前方に障害物があれば避けて飛ぶ。だが、上から(下りてくるブレード)はどうなのか。羽根の彩色で影響を軽減できる、ライトアップは危険なのでやめる、と言っているが、渡り鳥は夜も飛ぶ。どうやっても危険なことには変わりがないと気が付かないのか」と話す。
 「バードストライクの死骸で回収できるのは、全体のうちのわずか。死骸が確認できなかっただけで『影響はない』と言い切られる。鳥が障害物を回避するために余分に消費するエネルギーのことにも触れられていない。ラムサール条約登録湿地(大山上・下池)へ立ち寄る鳥が減少する可能性がある。影響は決して少なくない」と指摘した。
 そして「工事が周辺の環境に及ぼす影響はかなり気にしているようだが、どうも視点がずれている。低周波は人家には影響が少ないとしているが、風車の周辺ではかなりの数値が出る。山の土壌とミミズなどへの影響が心配だ。ミミズなど土の中の生物は鳥の貴重な餌。ミミズを食べるモグラやネズミの仲間はクマタカの餌になる。
 保水力のない山は少しの雨でも土砂崩れを起こし、荒れた山では虫も動物も消える。そんな山ではクマタカは生きていけない。守るべきはバードストライクだけでなく、持続可能な生態系ピラミッドの全て」と懸念を示した。

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