酒田市が国の「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」(以下交付金)を活用し、全市民に一人1万円分の紙商品券を7月以降に発送予定とする方針を示したことを巡り、市民の間から批判や疑問の声が上がっている。市は7月以降となる理由に、紙商品券に決まるまでの検討に時間を要したことなどを挙げている。これに対し一部市民は「市の対応は遅すぎる。市民の生活を守るという、危機管理意識が薄いのではないのか」「物価が高騰しても困らない人たちが事業を検討しているから、スピード感が出ないのではないのか」などと指摘している。(編集主幹・菅原宏之)
交付金は、国が物価高騰の影響を受ける生活者や事業者を支援し、地方創生を図るために、2023年11月に創設したもの。昨年11月21日に閣議決定した総合経済対策の中で拡充を決め、25年度補正予算に2兆円を盛り込んだ。人口や物価上昇率、財政力などを基に算定して各地方自治体に配布し、自治体は自由に使い道を決めることができる。
酒田市では交付金を活用して①物価高騰対応生活応援商品券事業②小学校給食事業の2事業を行う。総事業費は計13億4801万円。財源は交付金が12億5464万8千円、県の補助金が9336万2千円で、市の持ち出しは無い。
問題となっている①の物価高騰対応生活応援商品券事業は、今年5月1日時点で住民登録のある全市民に、一人につき1枚千円の紙商品券10枚つづり計1万円分を配布する、というもの。
発送開始は7月以降を予定し、市から住民票の住所へ順次郵送する。利用期間は8月1日~10月31日を想定している。市が酒田商工会議所や酒田ふれあい商工会などと実行委員会をつくり、市内の店舗を対象に4月から利用店舗を募集する。
事業費は11億8278万3千円。紙商品券の発行総額は約9億2千万円を見込み、差額の2億6千万円超は商品券の印刷や封入封緘、発送とその対応、換金などといった各種の業務委託費に充てる。
伊藤慎司・市企画調整課長は本紙の取材に「業務委託費などの経費はできる限り抑えていく方針。それによって生み出した残金は、別の事業に使いたいと考えている」と話した。
交付金を活用した2事業の関連予算は、26年度6月補正予算案に計上予定の一部事業費を除き26年度当初予算案に盛り込み、24日に開会した市議会定例会3月定例議会に上程した。

定例記者会見の矢口市長
交付金を活用した2事業は、2日の定例記者会見で矢口明子市長が公表した。
しかし県内35市町村では、一部を除き昨年12月~1月に交付金を活用した事業内容を決め、既に動き始めている自治体も見られた。
そうした状況を踏まえ、定例会見で公表が遅れた理由を問われた矢口市長は「市民の皆様、事業者の皆様に最大限還元できる方法は何かという視点で、交付金の効果が行き渡る活用方法を検討してきた」と、これまでの経緯を説明した。
その上で市が20年度から紙商品券をやめ、スマートフォンアプリによるキャッシュレス決済サービス「ペイペイ」のポイント還元を進めてきたことに言及した。
そして「(交付金を活用した物価高騰対策として)ペイペイを採用するのであれば、(ペイペイを)使っていない市民にどう行き渡らせるのかを検討したが、有効策は見つからなかった。この際、他の自治体でも採用している紙商品券を配るのが適切ではないか、との判断に至った」と遅れた背景を語った。
伊藤課長によると、交付金を活用した物価高騰対策では、紙商品券とペイペイのほかに、水道料金の基本料金を減免することも検討した。しかし検討を進めていく中で、13ミリ、20ミリ、25ミリの3種類あるメーター口径によって基本料金が異なること、1カ月当たりの還元額が少額にとどまることなどから断念したという。
伊藤課長は「できるだけ早く公表したかったが、検討の俎上に上がった事業は多岐にわたった。このため紙商品券に落ち着くまでに時間を要してしまったことが要因」と説明した。
一人1万円分の紙商品券を7月以降に発送開始予定などとする市の方針に対し、市民の間から疑問や批判の声が上がっている。
企業経営に詳しい酒田市内のある建設関連会社の関係者は「国の交付金は、物価高に苦しむ家計の負担を減らし、事業者も支援するのが目的。その趣旨からすればスピード感を求められるが、市の対応は遅すぎる。県内では昨年末に『おこめ券』の配布を決め、1月中旬から発送している自治体もある」と指摘する。
その上で「(自分の)周りでも、物価高で厳しい生活を強いられている人は多い。(市長や職員など市幹部たちは)市民の生活を守るという、危機管理への意識が薄いのではないのか」と苦言を呈した。
酒田市内の70歳代のある市民も「物価高騰対策では、おこめ券やペイペイによるポイント還元、商品券といった内容も大事だが、それよりもスピードが大事。商品券の発送が7月以降を予定し、利用期間が8月からとなっていることには、あきれた」と明かす。
そして「市長など市幹部たちは『物価が高騰しても困らない人たちが事業内容を検討しているから、スピード感が出ない』と言われても仕方がないのではないか。市民の苦しい実態を本当に分かっているのかどうか疑問だ」と批判した。
市民の間からはほかに―
▼酒田市議会議員が市の方針をどのように捉えているか聞きたい。3月定例議会で発送開始の時期を問題視しないのであれば、市民目線とは大きな隔たりがあり、議会としての役割を果たしているとは言えない。
▼商品券が7月以降に手元に届き、「8月から利用できます」と言われても、戸惑いしか感じない。県内の他自治体に比べ、酒田市は対応が遅すぎる。市の政策立案能力を疑ってしまう―といった声も聞かれた。